はじめに
2026年1月、出入国在留管理庁は特定技能の申請において、日本語試験の合格状況を申請者全員について運営団体へ照会する運用を開始しました。これまでは必要に応じて一部のみの確認でしたが、偽造された合格証明書によって在留資格が不正に取得されるケースが相次いだことを受け、制度全体の信頼性を守るための厳格化が進んだ形です。
この記事では、特定技能における偽造証明書問題の背景、全件照会への移行がもたらす影響、そして外国人を雇用する企業や外国人本人が今後どのように対応すべきかについて、実務視点から詳しく解説します。
特定技能制度とは?
特定技能は、人手不足が深刻な産業分野において外国人労働者を受け入れるため、2019年に創設された在留資格です。
特定技能1号と2号
- 特定技能1号:建設、介護、外食業、宿泊業などが対象。在留期間は最長5年。
- 特定技能2号:熟練技能を要する分野が対象。更新が可能で、事実上の永住につながる可能性がある。
取得ルートは主に2つ
- 技能実習ルート:技能実習生として約3年間の実務経験を積み、試験なしで特定技能1号へ移行。
- 試験ルート:日本語能力試験と技能試験の両方に合格することで取得。
制度創設当初は技能実習ルートが9割以上を占めていましたが、近年は試験ルートが急増しています。2019年にはわずか115人(7%)だった試験ルート取得者は、2025年には18万2,248人(47%)にまで拡大しました。
なぜ偽造証明書が問題になったのか
試験ルート増加の背景
試験ルートが増加した背景には、技能実習生として3年間を待たずに、より高い給与や柔軟な働き方を求めて特定技能への移行を目指す外国人が増えたことがあります。
しかし、試験ルートでは「日本語能力試験」と「技能試験」の合格証明書の提出が必須です。ここに、偽造証明書が入り込む余地が生まれました。
大阪府警による摘発事件
2025年、大阪府警はベトナム人3名を入管難民法違反(虚偽申請)などの容疑で摘発しました。
- 30代男性:偽造された日本語基礎テストの合格証を入管に提出し、特定技能を取得して就労。
- 30代女性:介護分野の「介護日本語評価試験」の偽造合格証を調達。供述によると、「30人分を超えないくらい」の偽造証明書を入手していた。
- 仲介役も関与し、組織的な偽造証明書ネットワークの存在が明らかになった。
大阪地裁は判決で、「偽造と見破れない体裁。出入国管理制度にも相当程度の悪影響を与えている」と厳しく指摘しました。
現場で起きていた「見抜けない偽造」
私自身も、2024年に偽造証明書の被害に遭遇した経験があります。
某国からの特定技能申請を複数名まとめて行った際、1名だけが不許可となりました。他の申請者と書類内容や雇用条件はほぼ同じだったため、なぜこの1名だけが不許可なのか、非常に不可解でした。
入管の担当者に理由を尋ねたところ、「国際交流基金の日本語基礎テストの証明書が適切でない可能性がある」との回答でした。
現地からPDF形式で送られてきた証明書でしたが、許可になった他の申請者の書類と見比べても全く遜色なく、偽造されたものだとは全く気づきませんでした。私だけでなく、日本側の支援機関担当者も同様に、まさか偽造されたものだとは思いもしないレベルでした。それだけ精巧に作られていたということです。
つまり、その時点ですでに偽造証明書は相当数流通していたと考えられます。今回の全件照会への移行は、本来もっと早く実施されるべきでしたが、それでもやらないよりは、今からでもやったほうが良いと思います。
全件照会体制への移行とその影響
新しい運用の内容
2026年1月以降、出入国在留管理庁は以下の運用を開始しました。
- 特定技能申請者全員について、日本語試験の合格状況を運営団体(日本国際教育支援協会、国際交流基金)へ照会。
- 偽造が確認された場合、申請を不許可とし、必要に応じて警察へ通報。
- 技能試験についても、全件照会を実施する方向で各省庁と調整中。
審査期間への影響
全件照会により、審査期間が長期化する可能性があります。真面目に取り組んでいる企業や外国人本人にとっては、待ち時間の増加という形で間接的な影響が及ぶことが懸念されます。
制度の信頼性確保は不可欠
それでも、制度への信頼が失われてしまえば、特定技能制度そのものが機能しなくなります。外国人労働者の受け入れは、単なる人手不足対策ではなく、企業の成長戦略や地域経済の持続可能性に直結する重要政策です。その基盤となる信頼性が揺らぐことは、誰にとってもマイナスです。
外国人を雇用する企業が今すべきこと
1. 信頼できる支援機関・行政書士と連携する
特定技能の申請手続きは複雑で、制度変更も頻繁に行われます。信頼できる登録支援機関や行政書士と連携し、正しい情報をもとに申請を進めることが重要です。
2. 書類の真正性を確認する
応募者から提出される証明書について、可能な範囲で真正性を確認しましょう。不自然な点があれば、専門家に相談することをお勧めします。
3. 審査期間の長期化を見越した採用計画
全件照会により審査期間が延びる可能性があります。採用スケジュールには余裕を持たせ、早めに準備を進めることが大切です。
4. 受け入れ体制の整備
在留資格の取得はゴールではなく、スタート地点です。外国人スタッフが安心して働ける環境を整えることが、定着率向上につながります。
外国人本人が気をつけるべきこと
1. 正規の試験を受験する
日本語試験や技能試験は、必ず公式の試験会場で受験してください。「簡単に合格できる」「証明書を発行できる」といった怪しい勧誘には絶対に応じないでください。
2. 仲介業者の選定に注意
信頼できる送り出し機関や仲介業者を選ぶことが重要です。不正な手段を勧めてくる業者には関わらないようにしましょう。
3. 証明書は必ず本物を提出する
偽造証明書を使用した場合、在留資格が取り消されるだけでなく、刑事罰の対象となります。今後の日本での生活や再入国にも影響します。
4. わからないことは専門家に相談する
制度について不明な点があれば、行政書士や登録支援機関に相談してください。正しい情報を得ることが、あなたの未来を守ります。
行政書士としての役割
私たち行政書士の役割は、単に書類を作成することではありません。依頼者の人生や目標の実現を支えることです。
1. 正しい申請手続きの遵守
制度に則った正しい手続きを行い、依頼者が安心して日本で働けるようサポートします。
2. 制度変更の迅速な把握と情報提供
制度は頻繁に変わります。最新の情報を把握し、依頼者に正確な情報を提供することが重要です。
3. 不安を安心に変える伴走支援
外国人本人にとっても、受け入れ企業にとっても、在留資格の申請は不安がつきものです。その不安を安心に変えるために、丁寧な説明と誠実な対応を心がけています。
4. 受けるべき案件と受けるべきでない案件の見極め
私たちは、結果を出せる案件だけを引き受けるべきです。無理な案件を受任することは、依頼者にとっても不利益です。
まとめ
特定技能制度における偽造証明書問題は、制度の信頼性を大きく損なう深刻な問題です。今回の全件照会への移行は遅きに失した感はありますが、それでも制度を守るために必要な措置だと考えます。
真面目に取り組んでいる企業や外国人の方々にとっては、審査の厳格化により一時的な負担が増えるかもしれません。しかし、制度への信頼が保たれることで、長期的には安定した外国人雇用が可能になります。
私たち行政書士は、正しい手続きを遵守し、依頼者に寄り添いながら、一件一件誠実に向き合っていきます。
特定技能は、外国人にとって「新しい人生のスタート」であり、企業にとっては「持続的成長の鍵」です。その実現を支えるために、私も全力でサポートしてまいります。
ご不明な点やご相談がありましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。
記事URL:
https://news.yahoo.co.jp/articles/e1c263630dd3f8bd023a8f601a625c8c23349a0c