2026年6月18日、中国籍のベビーシッターを虚偽の在留資格申請により不正に入国させたとして、会社役員夫婦が警視庁に逮捕されるという事件が報道されました。この事件は、在留資格制度に対する誤解や不正な手続きがいかに深刻な結果を招くかを示す典型的な事例です。本記事では、この事件を題材に、外国人家事使用人・ベビーシッターの受入れに関する法的枠組みと、企業・個人が注意すべきポイントを詳しく解説します。

■ 事件の概要

報道によれば、逮捕された会社役員夫婦は、2023年に虚偽の内容で在留資格を申請し、中国籍のベビーシッターを不正に入国させた疑いが持たれています。事件の発覚は、「中国人の富裕層が港区のマンションに子どもを住まわせて、ベビーシッターが資格外活動をしている」という情報提供がきっかけでした。

夫婦は日本に移住する中国籍の富裕層への支援を事業として行っており、「子どもに高い水準の教育を受けさせたい」という依頼を受けてベビーシッターを派遣していたとみられています。調べに対し、夫婦は容疑を否認しているとのことです。

■ 日本における外国人家事使用人受入れの法的枠組み

多くの方が誤解されていますが、日本では一般の個人や企業が自由に外国人のメイド・家政婦・ベビーシッターを雇用したり、呼び寄せたりする制度は存在しません。

外国人を「家事使用人」として日本に受け入れることができるのは、「特定活動(家事使用人)」という在留資格を利用する、極めて限定的なケースに限られます。

特定活動(家事使用人)が認められる主なケース

① 外交官・大使館職員の帯同家事使用人

外国の外交官や領事館職員が、自国から家事使用人を連れてくる場合です。外交特権に関連する特別な配慮から認められています。ただし、この場合でも厳格な要件があり、雇用契約の内容、報酬額、労働条件などが詳細に審査されます。

② 高度専門職外国人の家事使用人

高度人材ポイント制により「高度専門職」の在留資格を有する外国人が、一定の条件を満たした場合に限り、家事使用人を雇用することが認められます。

主な要件:
・雇用主が高度専門職1号または2号の在留資格を有していること
・雇用主の世帯年収が一定額以上(通常1,000万円以上)であること
・雇用主の世帯に13歳未満の子ども、または病気等で日常的に介護が必要な家族がいること
・家事使用人に対し適正な報酬を支払うこと(月額20万円以上が目安)
・雇用主が本国で雇用していた家事使用人である、または家事使用人が一定の実務経験を有すること

このように、高度専門職外国人であっても、誰でも家事使用人を雇えるわけではなく、厳格な要件をクリアする必要があります。

■ 「ベビーシッタービザ」は存在しない

今回の事件で最も重要な点は、「ベビーシッター専用のビザ(在留資格)」というものは日本に存在しないということです。

「子どもに母国語を話すベビーシッターをつけたい」
「文化的背景を理解したシッターに子どもの世話をしてもらいたい」

このような希望を持つ親の気持ちは理解できます。特に海外から日本に移住してきた富裕層の中には、子どもの教育環境を整えるために、母国語を話すベビーシッターを求めるケースが少なくありません。

しかし、そのような需要があるからといって、法律に存在しない在留資格で外国人を入国させることはできません。それを可能にするかのように装って虚偽の申請を行うことは、明確な入管法違反です。

■ 虚偽申請・不正受入れのリスク

今回の事件のように、虚偽の内容で在留資格を申請したり、資格外活動を黙認したりする行為には、深刻なリスクが伴います。

刑事責任

出入国管理及び難民認定法(入管法)では、虚偽の書類を提出して在留資格を取得させた者に対し、刑事罰が科されます。
・3年以下の懲役または300万円以下の罰金(またはこれらの併科)

また、不法就労助長罪として:
・事業主が不法就労をさせたり、あっせんしたりした場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金

申請を行った本人だけでなく、依頼者や事業者も罪に問われる可能性があります。

行政上の不利益

・他の外国人社員の在留資格更新が厳しくなる
・今後の外国人雇用において審査が厳格化される
・会社の信用情報に傷がつく
・許認可事業の場合、許可取消しのリスク

社会的信用の失墜

・報道による企業名の公表
・取引先からの信用喪失
・採用活動への悪影響
・既存社員の士気低下

■ 近年の在留資格審査厳格化の流れ

今回の事件の背景には、近年急増している在留資格の不正取得問題があります。特に「経営・管理」ビザをめぐる不正が多発したことから、入管当局は審査を大幅に厳格化しています。

2026年5月の報道では、経営・管理ビザの新規申請件数が厳格化後、厳格化前と比べて約96%減少したというデータが公表されました。また、「経営ビザ取得者の9割が不正の疑い」という指摘もなされており、ペーパーカンパニーを設立して在留資格を不正取得する事例が相次いで発覚しています。

こうした状況を受けて、入管当局は:
・提出書類の真正性確認の強化
・事業実態の詳細調査
・関係者への聞き取り調査の実施
・不正が疑われる事案の重点的な追跡調査

など、多層的な審査体制を構築しています。

さらに、2026年度内には在留手続き手数料の大幅引き上げも予定されており(5年の在留で約7万円、永住で約20万円)、制度全体の適正化が進められています。

■ 正しい外国人雇用のために必要なこと

では、企業や個人が外国人を適正に雇用し、または家族を呼び寄せるためには、どうすればよいのでしょうか。

1. 正確な情報の取得

まず、在留資格制度について正確な情報を得ることが重要です。インターネット上には古い情報や誤った情報も多く存在します。入管庁の公式サイトや、入管法に精通した専門家から最新の情報を得るようにしましょう。

2. 業務内容と在留資格の適合性確認

雇用しようとする外国人の業務内容が、その在留資格で認められている活動範囲内かどうかを確認する必要があります。たとえば、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で単純労働をさせることはできません。

3. 適正な雇用契約の締結

外国人を雇用する場合、日本人と同等以上の報酬、適切な労働条件を保証する必要があります。最低賃金以下の報酬や、労働基準法に違反する労働条件は認められません。

4. 資格外活動の管理

許可された活動範囲を超える業務をさせないよう、適切に管理することが求められます。たとえば、留学生をアルバイトで雇用する場合、週28時間以内(夏休み等は1日8時間以内)という制限を守る必要があります。

5. 専門家への相談

在留資格の申請は非常に複雑で、法改正も頻繁に行われます。自己判断で進めるのではなく、行政書士などの入管法専門家に相談することをお勧めします。

特に:
・初めて外国人を雇用する場合
・複雑な経歴を持つ外国人を雇用する場合
・過去に不許可になったことがある場合
・在留資格の変更が必要な場合

このようなケースでは、専門家のサポートが不可欠です。

■ 不正な業者・ブローカーに注意

今回の事件のように、外国人の日本移住や就労を支援すると称して、実際には不正な手段を用いる業者やブローカーが存在します。

以下のような謳い文句には注意が必要です:
・「確実にビザが取れます」
・「このビザなら何でもできます」
・「審査を早く通す特別なルートがあります」
・「書類は気にしなくて大丈夫」
・「ちょっと書類を調整すれば通ります」

正規の手続きにおいて「確実」ということはありませんし、「特別なルート」も存在しません。こうした業者に依頼してしまうと、結果的に虚偽申請に加担することになり、依頼者自身も罪に問われる可能性があります。

■ 在日外国人と雇用企業が守るべきこと

在留資格制度は、日本で適正に活動する外国人を保護し、不正を防止するための制度です。この制度を正しく理解し、遵守することが、外国人本人、雇用企業、そして日本社会全体の利益につながります。

在日外国人の皆様へ

・自分の在留資格で認められている活動範囲を正確に理解しましょう
・「簡単にビザが取れる」といった甘い誘いに注意しましょう
・在留期限の管理を徹底し、更新手続きは余裕を持って行いましょう
・わからないことがあれば、専門家に相談しましょう

雇用企業の皆様へ

・外国人雇用に関する法令を正しく理解しましょう
・就労資格の確認を徹底しましょう(在留カードの確認、ハローワークへの届出)
・適正な労働条件を保証しましょう
・定期的に在留資格の状況を確認しましょう
・不明点は必ず専門家に相談しましょう

■ まとめ

今回のベビーシッター不正入国事件は、在留資格制度に対する理解不足や、不正な手段による問題解決の試みが、いかに深刻な結果を招くかを示しています。

「子どものため」「ビジネスのため」という動機があったとしても、法律に違反する方法は決して正当化されません。そして、そのような方法に手を染めた場合、結果的に最も被害を受けるのは、当事者である外国人本人と、その家族、そして依頼者自身です。

日本で外国人を適正に雇用し、または家族を呼び寄せるためには、正しい知識と適切な手続きが不可欠です。複雑でわかりにくい制度だからこそ、専門家のサポートを受けながら、一つ一つ確実に進めることが重要です。

在留資格に関してご不明な点や不安なことがありましたら、入管法に精通した行政書士などの専門家にご相談ください。適切な手続きを踏むことで、外国人の方々が安心して日本で生活し、企業が安全に外国人材を活用することができます。

参考記事:
https://news.yahoo.co.jp/articles/a9c05af7e859bc400cfd26ebd988ef17a374f222