はじめに:取り締まりだけでは解決しない外国人雇用の課題

2026年6月7日、石川県小松市で開催されたベトナム人によるサッカー大会が、外国人雇用におけるコンプライアンス促進の新しいあり方を示しています。

この大会の出場条件は、「在留資格を持っていること」と「日本の社会保険に加入していること」です。

主催者である日本ベトナム国際交流機構(FAVIJA)のドー・クアン・バー理事長は、「楽しんで幸せに生活、そして仕事とか勉強できるために必ず日本の法律を守っていただきたい」と述べています。

外国人雇用の現場で日々向き合っている私たち行政書士にとって、この取り組みは非常に示唆に富んでいます。なぜなら、2026年現在の外国人材政策が「取り締まり強化」一辺倒になっている中で、まったく異なるアプローチで法令遵守を促しているからです。

本記事では、この大会の取り組みを通じて、外国人雇用における本質的な課題と、持続可能な解決策について考察します。

ベトナム人サッカー大会の概要と特徴

大会の規模と参加者

今年で6回目となるこの大会には、北陸3県(石川・富山・福井)をはじめ、長野、新潟、滋賀などから16チーム、300人以上のベトナム国籍の人々が参加しました。

参加者の多くは20代から30代の技能実習生で、仕事や留学のため来日している若者たちです。サッカーはベトナム国内で最も人気のあるスポーツであり、母国を離れて日本で働く彼らにとって、同郷の仲間と熱いプレーを繰り広げることは、日常生活の大きな活力源となっています。

「社会保険加入」を出場条件にした理由

この大会の最大の特徴は、出場条件として以下の2点を必須としていることです。

  1. 在留資格を持っていること
  2. 日本の社会保険に加入していること

なぜ、楽しいスポーツイベントに、こうした条件を設けたのでしょうか。

主催者の意図は明確です。それは、「日本の法律やルールを周知し、法令遵守の意識を高めること」です。

外国人労働者、特に技能実習生の現場では、社会保険未加入や資格外活動といった問題が後を絶ちません。しかし、行政による取り締まりだけでは、外国人は萎縮し、企業は採用を敬遠し、誰も幸せにはなりません。

この大会は、「罰則」ではなく「誇り」で人を動かす仕組みです。

「サッカーに出たいなら、ちゃんと保険に入ろう」
「ルールを守って、堂々とプレーしよう」

そういう前向きなメッセージが、ベトナム人コミュニティの中で自然に広がっていきます。

2026年の外国人材政策:厳格化の現状

制度厳格化が進む背景

2026年現在、日本の外国人材政策は大きな転換期を迎えています。主な変更点は以下の通りです。

技術・人文知識・国際業務ビザの審査厳格化(2026年4月15日施行)

  • カテゴリー3・4企業に対し、「所属機関の代表者に関する申告書」の提出が義務化
  • 通訳・翻訳・接客など対人業務従事者には、CEFR B2相当(日本語能力試験N2以上など)の言語能力証明が必須

特定技能「外食業」の新規受入れ停止(2026年4月13日施行)

  • 受入れ見込数(上限5万人)到達により、新規の在留資格認定証明書交付申請が原則不可能に

企業内転勤の審査厳格化(2026年4月施行)

  • 外国での社会保険加入証明、外国事業所の法人登記・納税状況、日本での事業所の写真・登記簿の提出が義務化

取り締まり強化の限界

こうした制度厳格化の背景には、不法就労や偽装雇用といった不適切事案を排除し、専門的・技術的活動の適正性を担保する狙いがあります。

しかし、取り締まり一辺倒のアプローチには限界があります。

  • 外国人本人が「相談すること」を恐れ、労働トラブルや人権侵害を訴えられなくなる
  • 雇用企業が「外国人を雇うのはリスクが高い」と採用を敬遠する
  • 外国人コミュニティと地域社会の信頼関係が損なわれ、多文化共生の取り組みが後退する

ある自治体では、不法就労の通報に報奨金を支払う制度が導入されましたが、弁護士会やNPOから「差別や偏見を助長する」として強い反対の声が上がっています。

コミュニティの自浄作用を活かす:サッカー大会が示す新しい視点

「誇り」が人を動かす

このサッカー大会の取り組みが優れているのは、「外発的な罰則」ではなく「内発的な動機」で法令遵守を促している点です。

社会保険に加入していない外国人は、サッカー大会に出場できません。これは、目に見える形での「不利益」です。

しかし、それは罰則ではありません。むしろ、「ルールを守っている仲間たちと一緒に、堂々とプレーする権利」を得るための条件なのです。

コミュニティ内で、こんな会話が自然に生まれます。

「お前、大会出るの?」
「うん、もちろん!ちゃんと保険入ってるし」
「俺もだよ。ルール守ってるから、何も心配ない」

これが、コミュニティの自浄作用です。

雇用主側への波及効果

この大会の効果は、外国人本人だけにとどまりません。雇用主側にも波及します。

「うちの従業員は、大会に出られるのか?」

そう考えたとき、雇用主は自社の外国人雇用のコンプライアンス状況を見直すきっかけを得ます。

社会保険への加入は、法律上の義務です。しかし、それを「コスト」としか捉えていない企業も少なくありません。

この大会は、雇用主に対してこう語りかけます。

「社会保険加入は、義務であると同時に、外国人スタッフの権利を守り、企業の信頼を築くための投資です」

「悪意」から生じているわけではありません。多くの場合、制度への理解不足や、人手不足による切羽詰まった状況が背景にあります。

地域で実現したい「協働」の支援

私が目指しているのは、「取り締まり」ではなく「協働」による支援です。

外国人本人が、「ルールを守ることが、自分たちの未来を守ることだ」と実感できる環境。

雇用する企業が、「社会保険加入は義務であると同時に、外国人の権利を守り、地域全体の信頼を築くための投資だ」と理解する文化。

そして、地域社会が、外国人を「労働力」としてだけでなく、「共に生きる隣人」として受け入れる寛容さ。

この3つが揃ったとき、初めて持続可能な多文化共生が実現します。

外国人雇用企業が今すぐできること

基本的なコンプライアンスの確認

外国人を雇用する企業の皆様には、まず以下の基本的な点を確認していただきたいと思います。

1. 在留カードの確認

  • 採用時に必ず在留カードの原本を確認する
  • 就労制限の有無を確認する
  • 在留期限を管理し、更新時期を把握する

2. 社会保険への加入

  • 雇用条件を満たす外国人は、必ず社会保険に加入させる
  • 保険料の天引きを適切に行う
  • 加入記録を保管する

3. 資格外活動許可の範囲確認

  • 留学生をアルバイトで雇う場合、週28時間以内の制限を厳守する
  • 他社との掛け持ちを含めた総労働時間を管理する

4. 職務内容と在留資格の整合性

  • 技術・人文知識・国際業務ビザで雇用している場合、単純労働をさせていないか見直す
  • 雇用契約書や職務内容説明書を適切に整備する

「人」を見る視点を忘れない

コンプライアンスは重要ですが、それだけでは不十分です。

外国人スタッフは、単なる「労働力」ではありません。それぞれに人生があり、夢があり、家族がいます。

彼らが安心して働き、成長し、地域に溶け込み、自分の人生を前に進められる環境をつくること。それが、雇用主としての本当の責任です。

外国人本人へのメッセージ:ルールを守ることは、あなた自身を守ること

日本で働き、学ぶ外国人の皆さんへ。

日本の法律やルールは、複雑でわかりにくいかもしれません。でも、それらは決して「あなたを縛るためのもの」ではありません。

ルールを守ることは、あなた自身の権利を守り、あなたの仲間たちの評判を守り、あなたの未来を守ることです。

もし、職場で困ったことがあったら、一人で抱え込まないでください。相談できる場所があります。

  • 出入国在留管理庁の相談窓口
  • 外国人在留支援センター(FRESC)
  • 地域の行政書士や弁護士
  • 外国人コミュニティの代表者

私たちは、あなたの味方です。

おわりに:人の人生に寄り添う支援を

石川県小松市で開催されたベトナム人サッカー大会は、外国人雇用における「コンプライアンス促進」の新しい可能性を示してくれました。

取り締まりではなく、誇り。
罰則ではなく、仲間意識。
恐怖ではなく、希望。

こうした前向きなアプローチこそが、持続可能な多文化共生を実現する鍵だと、私は確信しています。

行政書士として、私は「書類を作る人」ではなく、「人の人生に寄り添う伴走者」でありたいと考えています。

外国人雇用や在留資格のことで困ったことがあれば、いつでもご相談ください。

参考記事:
https://www.fnn.jp/articles/-/1056552