■ はじめに:他人事ではない「不法滞在摘発」の実態
2026年5月18日、千葉県旭市のアパートで暮らしていた外国籍の男女14人が、不法滞在として千葉県警に摘発されました。報道によれば、14人はタイ、インドネシア、カンボジア国籍の20代から50代の方々で、うち13人は短期滞在ビザで、1人は技能実習生として入国していたとのこと。中には約7年もの間、在留期限を超えて日本に滞在していた方もいたと報じられています。全員が東京出入国在留管理局に収容され、関係者の調べに対し「農業などをやって生活していた」と話したとのことです。
このニュースは、単に「違法な外国人が摘発された」という出来事として消費されるべきではありません。ビザ申請・在留資格申請を専門とする行政書士の立場から見ると、ここには在日外国人の方々、そして外国人を雇用する企業の経営者・人事担当者の方々にとって極めて重要な教訓が含まれています。本稿では、この事案を切り口に、不法滞在・不法就労に陥らないために知っておくべき知識と、企業が今すぐ取り組むべき対策を、具体的かつ実践的に解説します。
■ 1. 千葉県の不法就労者数は全国2位――数字が示す現実
出入国在留管理庁の発表によれば、2025年の千葉県における不法就労者数は2,257人。これは茨城県に次ぐ全国第2位という数字です。首都圏に位置し、農業・製造業・物流業が盛んな千葉県は、外国人労働力への需要が高い一方で、適正な在留資格を持たない方が紛れ込みやすい環境でもあります。
「自分の会社や周辺地域は大丈夫」と考えるのは早計です。今回の旭市の事案は、8部屋あるアパートのうち6部屋に14人が暮らしていたとのこと。地域に根を下ろした生活実態があったからこそ、長期間にわたって発覚しなかったとも言えます。これは、雇用する側・地域社会の双方が、無意識のうちにグレーゾーンを許容してしまう構造的なリスクを示唆しています。
■ 2. 「短期滞在」では絶対に働けない―最も多い誤解
今回摘発された14人のうち、13人は「短期滞在」ビザで入国していました。短期滞在ビザは、観光、親族訪問、商用での短期出張など、報酬を得ない活動のみが認められる在留資格です。期間は通常15日、30日、または90日。
ここで注意していただきたいのは、「短期滞在中にアルバイトをする」「友人の事業を手伝って日当をもらう」といった行為は、たとえ短時間・少額であっても入管法違反となるという点です。本人には不法就労罪(3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその併科)が、雇用した側には不法就労助長罪が問われる可能性があります。
「知り合いに頼まれて畑仕事を少し手伝っただけ」――こうした“軽い気持ち”が、収容・退去強制という重大な結果につながることを、改めて強調しておきたいと思います。
■ 3. 技能実習生の「失踪」と「不法残留」―構造的問題
今回摘発された1人は技能実習生でした。技能実習制度は、開発途上国の人材育成を目的とした制度ですが、実態としては労働力供給の側面も強く、賃金・労働環境への不満から失踪する実習生が後を絶ちません。
技能実習生が失踪し、別の場所で別の仕事をすれば、それは「資格外活動」かつ「在留期限超過(オーバーステイ)」となります。本人の責任もありますが、受け入れ企業や監理団体に問題があるケースも少なくありません。2024年に成立した育成就労制度(2027年施行予定)への移行を見据え、企業側も「使い捨てではない」体制への転換が求められています。
■ 4. 不法就労助長罪――雇用主の重い責任
入管法第73条の2は、不法就労助長罪を定めています。具体的には、以下の行為が該当します。
・事業活動に関し、外国人を不法就労させた者
・外国人に不法就労活動をさせるためにあっせんした者
・上記の行為に関与した者
罰則は「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその併科」。さらに重要なのは、「知らなかった」「在留資格があると信じていた」という弁解は、過失があった場合には認められないという点です(2017年改正で明確化)。
つまり、雇用主には在留資格・在留期限を確認する積極的な義務があるということです。「外国人から在留カードを見せられた」だけでは足りず、
・カードが本物か(偽造カードの存在)
・在留資格と業務内容が一致しているか
・在留期限が切れていないか
・資格外活動許可の範囲内か(留学生のアルバイト等)
これらすべてを体系的に確認・管理する仕組みが不可欠です。
■ 5. 在日外国人の方へ――在留資格を守るための4つの基本
ここからは、在日外国人の皆さんに直接お伝えしたい大切なポイントです。
【基本1】在留カードを常に携帯し、期限を必ず把握する
在留カードの携帯義務違反は、20万円以下の罰金です。スマートフォンのカレンダーに更新期限の3か月前、1か月前、2週間前にアラートを設定することをお勧めします。
【基本2】活動内容が在留資格と合っているか確認する
「技術・人文知識・国際業務」の方が単純労働に従事すれば資格外活動です。「留学」の方は週28時間以内のアルバイトのみ許可されます。
【基本3】転職・退職時は14日以内に届出を
所属機関に関する届出を怠ると、在留資格の更新・変更に支障が出るほか、20万円以下の罰金の対象にもなります。
【基本4】困ったときは、必ず専門家に相談を
不法滞在の状態が長引くほど、自首・出頭による在留特別許可の可能性も含めて、選択肢が狭まります。早期の相談が、人生を守る鍵です。
■ 6. 企業がいま取り組むべき5つの対策
外国人を雇用する企業の経営者・人事担当者の皆様に、具体的な対策を5つご提案します。
【対策1】入社前の在留資格スクリーニング
在留カードの原本確認、出入国在留管理庁の在留カード等番号失効情報照会システムでの真贋確認を必ず実施してください。
【対策2】在留資格と業務内容の整合性チェック
たとえば「技術・人文知識・国際業務」で採用した方を、現場の単純作業に配置すれば資格外活動になります。職務内容の変更時には必ず確認を。
【対策3】在留期限の一元管理
人事システムに在留期限を登録し、自動アラートを設定。更新申請は期限の3か月前から可能です。
【対策4】社内研修と多言語マニュアルの整備
本人にも在留資格のルールを理解してもらうことが、長期的なリスク低減につながります。
【対策5】行政書士など専門家との顧問契約
日々変わる入管法・運用実務に対応するには、専門家のサポートが効率的です。
■ 7. 「在留特別許可」という選択肢――もし不法滞在状態になってしまったら
すでに不法滞在状態にある方、または身近にそうした方がいる場合、選択肢のひとつとして「在留特別許可」があります。これは、退去強制事由に該当する方であっても、法務大臣の裁量により特別に在留を認める制度です。
2024年6月には在留特別許可のガイドラインが改定され、より透明性が高まりました。家族関係、在留期間、生活状況、本邦への貢献度などが総合的に考慮されます。ただし、これは「自首・出頭」を前提とした制度であり、摘発された後では認められる可能性が大きく下がります。
不安を抱えている方は、決して一人で抱え込まず、行政書士などの専門家にご相談ください。守秘義務がありますので、安心してお話しいただけます。
■ 8. これからの日本社会と外国人材――共生の視点
日本は人口減少と高齢化が進み、外国人材なしには成り立たない産業が増えています。農業、介護、建設、製造、物流――どの分野でも、外国人の力は欠かせません。
だからこそ、不法滞在・不法就労という「歪み」を放置することは、真面目に働く外国人の方々への裏切りでもあります。適正な在留資格のもとで、安心して働き、暮らせる社会をつくることが、結果的に日本企業の競争力にもつながります。
行政書士は、その「橋渡し役」として、申請手続きの代行だけでなく、企業のコンプライアンス体制構築、外国人ご本人の生活サポートまで、幅広く関わる専門職です。
■ 9. まとめ――「分からないことを、分からないままにしない」
今回の千葉県旭市での摘発事案は、決して特殊な事件ではありません。同様のケースは、日本全国どこででも起こり得ます。
在日外国人の方も、雇用主の方も、「グレーかもしれない」と感じた瞬間が、専門家に相談すべきタイミングです。早ければ早いほど、選択肢は広がります。
ビザ・在留資格に関するご相談は、初回無料で承っております。お一人で悩まず、まずはお気軽にお問い合わせください。あなたとあなたの会社の未来を、適正な手続きで守るお手伝いをいたします。
▼参考記事
https://news.yahoo.co.jp/articles/49d6eb9921562615b426abd577f3dfa29a480d68
