はじめに
2027年ウィンターシーズンを前に、全国のスキー場でリフト券価格の値上げが相次いで発表されています。ニセコ全山共通券はピーク期間に13,500円、HAKUBA VALLEY共通券は11,100円、札幌国際スキー場も7,000円へと値上げされました。
インバウンド観光の恩恵を受け、日本のスキー産業は長年の低迷から復活の兆しを見せています。しかし一方で、日本国内の家族や若者にとって、スキーが経済的に手の届きにくいレジャーになりつつあることも事実です。
この記事では、スキー場のリフト券値上げの背景、インバウンドとスキー産業の関係、そして地域経済と次世代のスキー文化の両立について考えていきます。
スキー場リフト券、2027年シーズンも値上げ続く
ニセコ全山共通券はピーク期13,500円
2027年ウィンターシーズン、国内を代表する高価格帯のスキーエリア、ニセコでは、「ニセコユナイテッド」全山共通1日券が、レギュラーシーズンで大人12,600円となりました。昨季の12,000円から600円、5%の値上げです。
さらに今季は、12月24日から2月20日のピークシーズン価格を13500円に設定。昨シーズンは、12月13日~3月22日のレギュラーシーズン価格は12,000円でした。今季はその期間のうち真冬の12月24日~2月28日をピークシーズンとして切り分けた形です。この期間に利用する場合、昨季の12,000円から1,500円、12.5%の値上げとなります。
札幌国際は1,000円値上げ、白馬は10,000円台へ
北海道では、札幌国際スキー場の値上げ幅が大きくなっています。通常期間の大人1日券は7,000円。昨季の6,000円から1,000円、約17%の値上げです。
札幌国際は、札幌市が出資する第三セクターが運営しており、過去の資料で「市民がスキーに親しむ基盤施設」として料金設定に配慮すると明記し、道内の主要スキー場に比べて低廉な価格を維持してきました。しかし、他のスキー場の状況を踏まえてか、今季は7,000円へ一気に1,000円引き上げます。
長野県の白馬エリアでも、主要スキー場が価格を引き上げます。エリア内10スキー場で利用できる「HAKUBA VALLEY全山共通1日券」は、大人11,100円です。昨季の10,400円から700円、約7%の値上げとなりました。
つがいけマウンテンリゾートは、2026-27シーズンの大人1日券を通常販売価格9,800円としました。昨季の8,200円から1,600円、約20%の大幅上昇です。
スキーは、いつからこんなに贅沢な遊びになったのだろう
40年前、スキーは若者の青春だった
私が大学生だった頃、今から約40年ほど前、冬になると「スキーに行く」ということ自体が一大イベントでした。
映画『私をスキーに連れてって』が話題となり、松任谷由実の音楽を聴きながら雪山へ向かう。スキーに行くことそのものが「トレンディ」だった時代です。「トレンディ」という言葉自体、今となってはすっかり死語になってしまいましたが、当時のスキーブームはまさに一大社会現象でした。
冬の新宿駅西口にはスキー場へ向かう夜行バスが何台も並び、週末の関越自動車道はスキー客の車で大渋滞。それさえも冬の風物詩でした。
大学生や若者にとって、スキーは決して特別な富裕層だけの遊びではありませんでした。友人たちと夜行バスに乗り、安い宿に泊まり、一日中滑る。それが冬の青春の一コマだったのです。
スキーブームの終焉とインバウンドの到来
しかし、その後、日本のスキーブームは終わりました。冬の娯楽そのものが多様化し、日本人の若者のスキー離れが進みました。スキー人口は減少し、利用者の減ったスキー場の中には経営が厳しくなり、閉鎖に追い込まれたところも少なくありません。
ところが、そんな日本のスキー場を取り巻く環境を大きく変えたのが、インバウンドでした。
コロナ禍以前から訪日外国人旅行者が増加し、とりわけ雪を見る機会の少ない東南アジアからの旅行者にとって、日本の雪は大きな観光資源となりました。さらに北京冬季オリンピックなどを契機として、中国でもスキーやスノーボードなどのスノースポーツへの関心が高まりました。
そして今、日本のスキー場では外国人スキーヤーを見ることが当たり前になりました。以前から外国人客が多かったニセコだけではありません。富良野、札幌国際、サッポロテイネなど、北海道各地のスキー場でも同じような光景を見るようになりました。
これは、長年低迷していた日本のスキー産業にとって歓迎すべきことだと思います。海外から多くの人が日本を訪れ、日本の雪質や山、美しい冬の自然を楽しみ、地域に宿泊し、飲食し、お金を使ってくれる。スキー場だけでなく、ホテル、飲食店、交通事業者、スキースクールなど地域全体に経済効果が生まれます。
観光に携わってきた者としても、インバウンドによって地域経済が活性化すること自体は非常に喜ばしいことだと思っています。
家族4人でスキーに行くと7万円、8万円の時代
もはや気軽に行けるレジャーではない
一方で、少し気になることもあります。スキーが、あまりにも高価なレジャーになってしまったことです。
今年も各地のスキー場でリフト券の値上げが報じられています。ニセコでも、条件によっては1日券が13,500円という水準になります。
海外から来る富裕層の旅行者にとっては、それほど大きな金額ではないのかもしれません。しかし、日本で生活する普通の家族にとってはどうでしょう。
例えば、家族4人でスキーに行くとします。家族4人分のリフト券を購入し、車でスキー場まで行く。ガソリン代もかかります。そして昼になれば、スキー場で一杯2,000円、場合によっては3,000円近いカツカレーやラーメンを家族で食べます。レンタルが必要なら、さらに費用は増えます。
そう考えると、家族4人で一日スキーを楽しむだけで、7万円、8万円近い出費になっても不思議ではありません。もはや「週末、家族でちょっとスキーに行こうか」と気軽に言える金額ではなくなりつつあります。
スキー場が値上げする理由
運営コストの上昇と持続可能性
もちろん、スキー場側だけを責めることはできません。リフトやゴンドラの維持管理、安全対策、圧雪、除雪、電気代、燃料費、人件費など、広大なスキー場を安全に運営するためには莫大な費用がかかります。
物価高、原油高、人件費上昇が続く現在、価格を上げなければ事業そのものを維持できないスキー場もあるでしょう。適正な利益を確保し、従業員に適正な賃金を支払い、設備投資を行い、安全なスキー場を次の世代に残していくためには、必要な値上げは当然行わなければなりません。
事業者が利益を出せなければ、そもそもスキー場自体がなくなってしまいます。だから、単純に「リフト券が高すぎる。昔の値段に戻せ」と言いたいわけではありません。
私が気になるのは、その先である
日本の若者にとって「高くてできないスポーツ」になってしまわないか
私が気になるのは、その先です。私たちが大学生だった頃、若者がアルバイトで貯めたお金でも楽しめたスキーが、これから日本の若者にとって「高くてできないスポーツ」になってしまわないでしょうか。
子どもの頃にスキーを経験しない。札幌市の小学校でもスキー授業の回数が減っている。学生になってもスキー場へ行かない。社会人になってもスキーをしない。そうなれば、当然、自分に子どもができてもスキーに連れて行くことはありません。こうして日本人のスキー人口はさらに減っていきます。
一方では、世界中から日本の雪を求めて多くの外国人がやって来る。日本の雪が世界から高く評価され、北海道や長野のスキー場が国際的な観光地として発展していく。それ自体は素晴らしいことです。
しかし、その雪を最も身近に持っているはずの日本の子どもたちや若者が、経済的な理由で楽しめなくなっていくとしたら、どこか寂しい。
世界中の人を魅了する雪が、日本の子どもたちにも身近であってほしい
インバウンドと地域住民、二者択一ではないはずだ
日本には世界に誇れる山があり、雪があります。特に北海道には、世界中の人が飛行機に乗って何時間もかけてやって来るほど素晴らしい雪が、私たちの日常のすぐそばにあります。それを日本の子どもたちにも、もっと気軽に体験してほしい。
スキーが一部の富裕層だけのレジャーになるのではなく、子どもたち、学生、若者、そして家族みんなが楽しめるスポーツであり続けてほしいと思います。
インバウンドによってスキー場や地域経済が潤うことと、日本人が手軽にスキーを楽しめること。これは決して二者択一である必要はないはずです。
例えば地域住民向け料金、子ども料金、学生料金、シーズンパス、道民割引など、地域の人や次の世代が雪に触れ続けられる仕組みを、スキー場だけでなく自治体や観光業界も含めて考えていく必要があるのではないでしょうか。
外国人雇用、在留資格、地域共生の視点から
外国人従業員を雇用するスキー場・宿泊施設の課題
スキー場や宿泊施設では、インバウンド需要の高まりとともに、外国人従業員の雇用も増えています。特に冬季のリゾート地では、季節労働者として多くの外国人が働いています。
しかし、外国人を雇用する際には、在留資格の確認、適正な雇用契約の締結、労働条件の遵守など、法的に守るべき事項が多くあります。特に「特定技能」や「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格を持つ外国人を雇用する場合、業務内容と在留資格の整合性を確認することが重要です。
また、インバウンド客が増えることで、地域に定住する外国人も増えています。彼らが安心して働き、生活できる環境を整えることは、地域の持続可能性にとっても重要です。
行政書士として、私は外国人雇用を検討する企業の皆様に対し、制度と現実の両面から、実現可能性を重視した提案を行っています。単なる書類作成ではなく、その企業の事業計画や人材戦略に寄り添った支援を心がけています。
持続可能なスキー文化のために
観光産業の発展と地域住民の生活、両立を目指して
40年前、新宿から夜行バスに乗って雪山へ向かった若者たちがいました。そして今は、世界中から飛行機に乗って北海道の雪を目指して人々がやって来ます。時代は大きく変わりました。
観光産業としてのスキーが発展し、そこで働く人たちが適正な収入を得て、スキー場が持続可能な事業として存続していくこと。そして同時に、日本の子どもたちや若者が「今度の休み、スキーに行こう」と気軽に言えること。
その二つが両立する日本のスキー文化であってほしい。世界中の人を魅了するこの雪が、日本に暮らす人たちにとっても、いつまでも身近なものであり続けてほしいと願っています。
まとめ
2027年ウィンターシーズン、全国のスキー場でリフト券価格の値上げが続いています。インバウンド需要の高まりと運営コストの上昇が背景にありますが、一方で日本国内の家族や若者にとって、スキーが経済的に手の届きにくいレジャーになりつつあることも事実です。
観光産業としての発展と、地域住民が気軽にスキーを楽しめる環境。この二つを両立させる仕組みづくりが、今後の日本のスキー文化にとって重要な課題となるでしょう。
外国人雇用、在留資格、地域共生の視点からも、持続可能なスキーリゾートの在り方を考えていく必要があります。
【参考記事】
https://tabiris.com/archives/skilift2027/
