■ はじめに:変わる外国人雇用の常識

2027年度、日本の外国人労働者受け入れ制度は大きな転換期を迎えます。長年運用されてきた技能実習制度が廃止され、新たに「育成就労制度」がスタートするのです。

この制度変更は単なる名称変更ではありません。外国人労働者の転職自由度が大幅に高まり、企業間での人材獲得競争が激化することを意味します。特に地方企業にとっては、せっかく育てた人材が都市部へ流出するリスクが一層高まる厳しい時代の到来です。

本記事では、香川県の事例を基に、これから外国人労働者を雇用する企業、すでに雇用している企業が知っておくべき実務上のポイントを、在留資格管理の視点から詳しく解説します。

■ 急増する外国人労働者―香川県の現状から見る全国的傾向

香川労働局のデータによれば、県内の外国人労働者数は2025年10月末時点で1万6557人。3年連続で過去最多を更新し、10年前(5172人)と比較すると実に3.2倍に増加しています。雇用する事業所数も2358か所と過去最多を記録しました。

百十四経済研究所が実施した調査では、県内企業の38%がすでに外国人を雇用していると回答。その主な理由として「慢性的な人手不足」「日本人の応募が少ない」を挙げています。

この傾向は香川県に限った話ではありません。全国的に少子高齢化が進む中、外国人労働者は日本経済を支える不可欠な存在となっています。

■ 技能実習制度から育成就労制度へ―何が変わるのか?

従来の技能実習制度は、「国際貢献」を建前とし、途上国への技術移転を目的としていました。しかし実態は労働力確保の手段として機能しており、転職制限など労働者の権利が制限される問題が指摘されていました。

2027年度に始まる育成就労制度では、外国人を明確に「労働力」と位置づけ、一定条件下での転職を認めます。これにより、外国人労働者の選択肢が広がる一方、企業側は人材流出リスクに直面することになります。

現状でも、特定技能に移行した香川県内の技能実習生約2400人(2023年6月末時点)のうち、3分の1が県外で転職しています。転職先の多くは、賃金水準の高い大阪や首都圏の企業です。

育成就労制度の導入により、この流動化はさらに加速するでしょう。

■ 地方企業が直面する課題―賃金競争では勝てない現実

大都市圏と地方では、賃金水準に明確な格差があります。外国人労働者にとって、収入は日本で働く最も重要な動機の一つであり、賃金面で優位な都市部企業への転職は合理的な選択です。

では、地方企業に勝ち目はないのでしょうか?

答えは「ノー」です。賃金以外の要素で勝負することは十分可能です。

■ 外国人労働者に選ばれる職場づくり―5つの重要ポイント

1. 丁寧な職務指導と技術教育

香川県丸亀市の建設会社では、インドネシア人技能実習生がアスファルト舗装技術を学んでいます。「技術は難しいけれど、丁寧に教えてもらえるので安心して覚えられる。長く働けるように頑張りたい」との声が聞かれます。

体系的な研修プログラム、一人ひとりに寄り添った指導、成長を実感できる環境は、外国人労働者にとって大きな魅力です。

2. 充実した日本語教育

言語の壁は、外国人労働者が日本で働く上での最大の課題の一つです。企業が日本語教育を提供することで、業務効率が上がるだけでなく、労働者の生活の質も向上します。

日本語能力の向上は、地域社会への溶け込みや長期定着にも直結します。

3. 生活面でのサポート

受け入れ当初、ゴミ出しルールを守らなかったり、騒音問題で地域住民から苦情が寄せられるケースもありました。これは文化や習慣の違いが原因です。

企業は、生活オリエンテーションの実施、地域ルールの説明、困りごと相談窓口の設置など、生活面での手厚いサポートを提供すべきです。

4. 地域社会との橋渡し

ある企業では、外国人労働者を地域の清掃活動やイベントに積極的に参加させています。これにより、地域住民との信頼関係が構築され、外国人労働者も地域の一員としての帰属意識を持つようになります。

地域に根付くことは、長期定着の重要な要素です。

5. 適切な在留資格管理とコンプライアンス

外国人が日本で安心して働くためには、在留資格が適正に管理されていることが大前提です。企業が法令を遵守し、手続きを適切に行うことで、労働者は将来への不安なく働けます。

■ 在留資格管理の実務―企業が押さえるべき基本

外国人を雇用する企業は、在留資格に関する以下の点を理解し、適切に対応する必要があります。

在留資格の種類と就労制限

在留資格には「就労可能」「就労不可」「個別に就労可否が決まる」の3種類があります。技能実習、特定技能、技術・人文知識・国際業務などは就労可能ですが、それぞれ従事できる業務内容に制限があります。

雇用契約内容と在留資格が一致していない場合、不法就労となり、企業も処罰対象となります(不法就労助長罪)。

技能実習から特定技能への移行

技能実習生は、一定の要件を満たせば「特定技能」へ移行できます。特定技能は同一業種内での転職が可能であり、より専門的な業務に従事できます。

企業は、優秀な実習生を特定技能として継続雇用する選択肢を検討すべきです。

育成就労制度への対応準備

2027年度のスタートに向け、制度の詳細が順次公表されます。企業は最新情報をキャッチアップし、受け入れ体制を整える必要があります。

家族滞在と生活基盤の安定

特定技能2号や就労ビザを持つ外国人は、家族を日本に呼び寄せることができます(家族滞在)。家族と共に暮らせることは、長期定着の大きな動機となります。

企業は、家族の生活支援も視野に入れた受け入れ体制を検討すべきです。

在留期限管理と更新手続き

在留期限が切れると不法滞在となります。企業は雇用する外国人の在留期限を一元管理し、更新手続きを適切にサポートする仕組みを構築しましょう。

■ 行政の役割―企業を支える支援体制の必要性

企業努力だけでは限界があります。自治体や行政機関には、以下のような支援が期待されます。

・外国人労働者の定着支援プログラムの整備
・企業ニーズの把握と情報提供
・多言語対応の相談窓口設置
・地域住民との共生促進事業
・日本語教育機関との連携

専門家は「行政には、定着に向けた企業ニーズの把握やサポートが重要」と指摘しています。

■ 専門家との連携の重要性

外国人雇用には、労働法、入管法、社会保険など複数の法領域が関わります。自社だけで全てを対応するのは困難であり、専門家のサポートが不可欠です。

・行政書士:在留資格申請、ビザ手続き
・社会保険労務士:労務管理、社会保険手続き
・弁護士:労働紛争、法的リスク対応

適切な専門家と連携することで、法令遵守を徹底しつつ、外国人労働者が安心して働ける環境を整えられます。

■ まとめ:外国人労働者は「選ぶ側」になる

これまで、企業が外国人を「選ぶ」立場でした。しかし育成就労制度の導入により、外国人が企業を「選ぶ」時代へと転換します。

賃金だけでなく、職場環境、成長機会、生活サポート、地域との関係性、そして法的安定性――これら全てが、外国人労働者の選択基準となります。

地方企業であっても、丁寧な職務指導、充実した日本語教育、手厚い生活支援、地域社会との共生促進、そして適切な在留資格管理を行うことで、優秀な人材を確保し定着させることは可能です。

「育て上げた外国人労働者の争奪戦」はもう目前です。今から準備を始めた企業だけが、この競争を勝ち抜けるでしょう。

外国人雇用に関する疑問や在留資格の手続きについては、当事務所へ早めにご相談ください。適切なサポートが、あなたの会社と外国人労働者の未来を守ります。

https://news.yahoo.co.jp/articles/97e03107a4229489a9351fa248b5bb824a06b021