先日、名古屋市でベトナム人の男性3人が美容師免許を持たずに美容室を営業していたとして、美容師法違反の疑いで逮捕されました。

警察によると、この3人は名古屋市東区のビルの一室で、ヘアカットなどを行っており、1日あたり30人もの外国人客が訪れていたとのこと。さらに、この店舗は「美容学校」として生徒も募集していた可能性があるといいます。

このニュースは、日本で働く、あるいは働こうとしている外国人の方にとって非常に重要な示唆を与えています。
「技術や経験があっても、在留資格(ビザ)が合っていなければ、働いてはいけない」という現実です。


■日本には「美容師になれるビザ」が存在しない?

実は、日本の在留資格制度には、美容師や理容師、ネイリスト、マッサージ師といった職業に対応した就労ビザは、原則として存在しません。

例えば、企業でのエンジニア職や通訳、国際業務などには「技術・人文知識・国際業務」といったビザが該当しますが、美容やリラクゼーション系の仕事はこのカテゴリーに含まれません。

つまり、美容室で働くことは、外国人にとって「できるようでできない仕事」なのです。

では、現在そうした仕事に就いている外国人はどうしているのか?

多くの場合、「永住者」「日本人の配偶者」「定住者」「家族滞在」など、就労制限のない在留資格を持っているケースです。これらの資格を持っていれば、職種に関係なく仕事をすることが可能です。


■「知らなかった」は通用しない現実

今回のようなケースでは、経営していた当人たちが「就労ビザではダメなことを知らなかった」と主張したとしても、法律上は免責されません。

美容師法違反だけでなく、不法就労や資格外活動の違反となれば、刑事処罰や在留資格の取消し、さらには退去強制の対象にもなりかねません。

これは本人にとって非常に大きなリスクですし、同時にその外国人を雇用した側(日本人事業者)にも責任が問われることがあります。


■「技術がある」だけでは不十分な時代

特に、美容やリラクゼーションの分野では、外国人の技術力が高く、同じ母語を話す同国人に人気を集めることも少なくありません。

しかし、「需要がある」「喜ばれている」ことと、「法律的に問題ない」ことは別の問題です。

行政書士として外国人支援を行う中でも、「働いてはいけない職種とは知らなかった」「ネットで見てできると思った」といった声をよく聞きます。

そのたびに、「まずは在留資格の内容を確認しましょう」「事前に相談してください」と強くお伝えしています。


■外国人本人だけでなく、日本人側の理解も必要

この問題は、外国人本人だけに責任があるわけではありません。

受け入れ側である日本人側にも、「この仕事を外国人にお願いして問題ないのか?」という視点が必要です。

在留資格制度は非常に複雑です。許可される職種、就労の範囲、資格外活動の許可の有無など、細かく分かれており、少しの誤解が重大な違法行為に繋がります。

企業や事業主の皆さんには、外国人を雇用する際には必ず、在留カードの内容と、実際の業務が適合しているかを確認し、不安があれば専門家に相談することをお勧めします。


■まとめ:「制度の壁」を正しく理解することが共生社会への第一歩

今回のニュースを通じて、在日外国人が直面する制度上の「見えない壁」が浮き彫りになりました。

・働けると思っていた職種が、実は就労不可
・美容やネイル、マッサージには対応する就労ビザがない
・制度を知らなかったことで人生が狂うリスクがある

こうした問題を防ぐには、「知らない」を減らすことが何よりも重要です。

私たち行政書士は、外国人の方が安心して日本で生活・就労できるよう、在留資格の手続きや就労可否の確認など、制度の橋渡し役を担っています。

もし、自分の働き方に不安がある、自社で外国人を雇用したいが何から始めればいいか分からない、という方がいれば、早めに専門家へ相談してください。

制度を正しく理解してこそ、多様な人々が安心して共に暮らせる社会が実現します。