日本は、世界でも有数の「災害大国」です。地震、台風、大雨、津波――これらの自然災害は、突然やってきては私たちの暮らしを一変させます。
そんな中、近年増加しているのが、日本で暮らし、働く外国人労働者の存在です。特に関西圏では、住民に占める外国人の割合が全国でも高く、大阪市生野区では実に23.3%が外国人というデータもあります。
さらに、インバウンド観光の回復とともに、観光客も激増。こうした状況下で、日本語を十分に理解できない外国人が災害に巻き込まれたとき、「情報が伝わらない」という深刻な問題が浮かび上がっています。
それはまさに、“情報難民”という新たなリスクです。
今回は、外国人雇用に携わる企業や人事担当者の皆さまに向けて、災害時に起こりうる情報格差の実態と、企業として取るべき対応策を、行政書士の視点から解説いたします。
■外国人が災害時に直面する「情報格差」とは?
2018年の大阪北部地震では、都市機能が一時停止。阪急電車が止まり、線路上を歩いて避難する乗客の中には、多くの外国人観光客や在住者の姿がありました。
彼らの多くが、次の行動をどうすればよいか分からず、立ち尽くしていたのです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/0124513046b0044c85eccba66c34ec037376c7b4
なぜ、こうした事態が起きたのでしょうか?
それは、日本語を理解できない、あるいは正しく読み取れない外国人に対して、十分な情報提供ができていなかったからです。
災害発生時の行政の発表、交通機関の案内、避難所の情報、生活インフラの復旧状況――その多くは「日本語」で発信されます。
しかし、日本語の高度な表現や漢字を読み解けない外国人にとって、それは「情報がない」のと同じです。
これが、災害時における「情報格差」、そして「情報難民」問題の正体です。
■関西圏の現状とリスクの顕在化
関西は、外国人居住者・観光客ともに急増している地域です。
大阪市港区・浪速区・西成区などでは外国人比率が高く、また大阪府全体では訪日外国人客数が過去最多を記録。
加えて、南海トラフ地震の発生が今後30年以内に70~80%という高い確率で想定されており、災害リスクが非常に高い地域でもあります。
つまり、関西では「外国人が災害に遭遇する可能性」が非常に高いのです。
にもかかわらず、多言語での災害情報提供体制はまだ整備の途中段階にあります。
■外国人社員を守れない企業のリスクとは?
企業がこの「情報難民問題」を見過ごしてしまうと、さまざまなリスクが生じます。
- 安全配慮義務違反
企業には、従業員の安全を守る義務があります。外国人社員が適切な避難行動をとれず被災すれば、企業の責任が問われかねません。 - 企業イメージの低下
「外国人社員が放置された」という情報は、SNSなどで一瞬にして拡散され、企業ブランドに傷がつきます。 - 雇用定着率の低下
災害に対する不安が強い職場では、外国人が定着しづらくなり、人材不足に拍車をかけます。
特に技能実習生や特定技能で働く外国人にとって、「安心して働ける環境」は就業先選びの重要な判断基準のひとつです。
■行政の取り組みとその限界
行政側も、対策を進めています。
大阪市では、「やさしい日本語」での災害情報の提供や、多言語対応の防災アプリ(ひらがな表示付き)をリリースしています。
また、大阪市港区ではホテルなどを巻き込んだ「おもてなし防災プロジェクト」がスタート。多言語マニュアルやサイネージ設置が進んでいます。
しかしながら、こうした施策はまだ限られたエリアでの試行段階であり、すべての地域・すべての企業に行き届いているわけではありません。
だからこそ、企業側での自主的な取り組みが強く求められるのです。
■企業が今すぐ取り組むべき対策とは?
ここからは、行政書士の立場から、企業として実施すべき3つの具体的な対策を紹介します。
1. 外国語版防災マニュアルの整備
母国語または英語・やさしい日本語など、複数言語での防災マニュアルを作成し、外国人社員に配布しましょう。
避難場所、安否確認の手段、災害時の行動フローなどを明確にしておくことで、混乱を最小限に抑えられます。
2. 定期的な防災訓練と通訳体制の整備
年1回以上の防災訓練を実施し、外国人社員にも分かる形で参加を促すことが重要です。
可能であれば、簡単な通訳やピクトグラム(絵記号)を活用することで理解が深まります。
3. 雇用管理規程への明文化と周知
社内規程や安全管理マニュアルに、災害時の外国人対応について明文化し、全社員に共有しておくこと。
これにより、企業全体で共通認識を持ち、組織的な対応が可能になります。
■当事務所による支援のご案内
ニセコビザ申請サポートセンターでは、外国人雇用と在留資格に精通した行政書士として、
次のようなサポートを提供しております:
- 外国語による防災マニュアル作成支援
- 外国人社員向け研修・セミナーの企画実施
- 在留資格と労務管理を踏まえた安全対策のアドバイス
「うちの会社に何が必要か分からない」という場合でも大丈夫です。
状況に応じた最適な対策をご提案いたします。
■まとめ:外国人支援は「やさしさ」ではなく、企業の責任と戦略
外国人社員が災害時に安心して行動できる環境づくりは、
単なる「やさしさ」ではありません。
それは、企業の安全配慮義務であり、社会的責任であり、
そして、人材確保・定着のための「経営戦略」です。
災害は、いつ起きるか分かりません。
だからこそ、「今」備えておくことが、すべての企業に求められています。
ぜひ、御社の現状を見直すきっかけにしていただければ幸いです。
私たちは、外国人と企業の橋渡し役として、いつでもご相談を承っております。
