2026年8月、名古屋市近郊の日本語学校で、無資格教員5名が授業を行っていたことが、名古屋出入国在留管理局の立ち入り調査で明らかになりました。この問題は、一見すると教育業界内部の不祥事に見えますが、実は外国人材を雇用する企業、そしてこれから日本で働こうとする外国人の方々にとって、極めて重要な意味を持っています。
本記事では、この事例を深掘りし、外国人雇用における「見えないリスク」と、それに対する企業や個人の対策について考えます。
■ 何が起きたのか? 無資格教員問題の全貌
名古屋市から十数キロのベッドタウンにある日本語学校。法務省に認定されたこの学校で、十数人いる教員のうち5人が、日本語教員の資格を持っていなかったことが判明しました。
法務省が定める「告示基準」では、日本語学校の教員は以下のいずれかを満たす必要があります:
- 大学や大学院で日本語教育に関する教育課程を履修
- 日本語教育能力検定試験に合格
- その他、文化庁が認める要件
しかし、この学校では要件を満たさない職員が、少なくとも4年前から常態的に授業を担当していたとされています。
■ 運営会社の証言:「人手不足が全ての原因」
取材に応じた運営会社の社長は、「人手不足が全ての原因の発端」と認めました。
「辞めていったりとか、足りなくなったりして」「募集しても来ないというなかで」「全部広告出して、有料職業紹介からも受けて、人材をどんどん募集してきた」「面接で終わってしまった人もいる」
さらに社長は、他の学校でも同様の問題がある可能性について、「それは全然あると思いますよ」と証言しています。
この発言は、問題が一校に限らず、日本語教育業界全体に広がる構造的課題であることを示唆しています。
■ 指導書に記された違反の数々
名古屋出入国在留管理局が発行した「指導書」には、以下のような違反が列挙されていました:
- 同時に授業を受ける生徒数が20人を超えていた
- 教員要件に適合しない者が授業を担当
- 違反が常態化していた
- 総授業数の4分の1以上を不適合教員が担当
さらに深刻なのは、入管に届け出ていた有資格教員の中に「出勤実態が確認できない」「授業実績ゼロ」の者がいたことです。つまり、形式上は有資格者を揃えているように見せかけ、実際には無資格者が授業を行っていた疑いがあります。
■ 外国人雇用企業にとっての「見えないリスク」
この問題は、外国人材を雇用する企業にとって、いくつかの重要なリスクを示唆しています。
1. 日本語能力の不足リスク
日本語学校は、外国人材が日本で働き、生活するための「入口」です。その教育の質が担保されていなければ、採用した外国人材が期待する日本語能力を持たない可能性があります。
結果として、以下のようなコストが発生します:
- 社内での追加的な日本語研修
- コミュニケーションミスによる業務遅延
- 安全教育や業務指示の理解不足によるトラブル
2. 在留資格更新時のリスク
在留資格の更新時には、日本語能力が審査要素の一つとなる場合があります。十分な日本語教育を受けていない外国人材は、更新が認められないリスクが高まります。
3. 企業の信用リスク
外国人材の在留管理に不備があると、企業自体が入管から指導を受ける可能性があります。特に「技術・人文知識・国際業務」や「特定技能」などの在留資格では、受入れ企業の管理責任が問われます。
■ 在日外国人とそのご家族が知っておくべきこと
これから日本語学校を選ぶ外国人の方、またはそのご家族には、以下の点を確認することをお勧めします。
1. 学校の認定状況を確認する
- 法務省または文部科学省の認定を受けているか
- 認定基準を満たしているか(教員数、施設、カリキュラムなど)
2. 教員の資格を確認する
学校見学の際に、教員が適切な資格を持っているかを確認しましょう。ホームページに教員の経歴が公開されている学校は信頼性が高いと言えます。
3. 卒業生の進路実績を確認する
- 大学・専門学校への進学率
- 就職実績
- 在留資格変更の成功率
これらの情報が公開されていない学校は、避けたほうが無難です。
4. 授業料と寮費の妥当性
今回の事例では、年間授業料約60万円、施設費含め約70万円、寮費月額3万5千円(光熱費込み)でした。これが妥当かどうかは、他校と比較して判断しましょう。
■ 企業ができる対策
外国人材を雇用する企業は、以下のような対策を講じることで、リスクを軽減できます。
1. 採用時に日本語能力を客観的に評価する
- 日本語能力試験(JLPT)のレベルを確認
- 面接時に実際の会話能力をチェック
- 業務に必要な専門用語の理解度を確認
2. 出身校の質を確認する
- 法務省・文部科学省の認定校か
- 過去に行政処分を受けていないか
- 卒業生の評判はどうか
3. 社内で継続的な日本語教育を提供する
外部の日本語学校に頼るだけでなく、社内でもフォローアップ研修を行うことで、業務に必要な日本語能力を確保できます。
4. 在留資格の専門家と連携する
ビザ申請や在留資格に詳しい行政書士などの専門家と連携し、適切な在留管理を行うことが重要です。
■ 今後の制度改正と業界の動向
2024年度に「日本語教育機関認定法」が施行され、日本語学校の管轄が法務省から文部科学省に移行しつつあります。これにより、教育の質が一層重視されることが期待されています。
しかし、制度が整備されても、現場の人手不足が解消されなければ、同様の問題は再発する可能性があります。
業界全体としては、以下のような取り組みが求められます:
- 日本語教員の待遇改善
- 資格取得支援の充実
- 教育機関への監督強化
■ まとめ:外国人雇用は「入口」から始まる
外国人材の受け入れは、ビザ取得だけで完結しません。言語教育、生活支援、キャリア形成——すべてが一体となって初めて、持続可能な雇用が実現します。
今回の日本語学校の無資格教員問題は、その「入口」である日本語教育の質が揺らいでいることを示しています。企業も個人も、この問題を「他人事」とせず、自分たちに関わる課題として捉える必要があります。
私たちは、ビザ申請や在留資格取得の専門家として、外国人の方々が安心して日本で生活し、働ける環境づくりをサポートしています。お困りのことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
記事URL: https://digital.asahi.com/articles/ASV8P1VN9V8PUTIL02MM.html
