はじめに

2026年7月、出入国在留管理庁が外国人の在留管理に関する重要な制度変更を実施しました。強制退去手続き中の外国人に関する個人情報を、居住する全市町村に対してプッシュ型で提供する仕組みが始まったのです。この変更は、在日外国人とそのご家族、そして外国人を雇用する企業の経営者や人事担当者にとって、見過ごすことのできない重要な意味を持っています。

本記事では、この制度変更の背景、具体的な内容、そして実務上の影響について、専門的な視点から詳しく解説します。

制度変更の背景:なぜ今、このタイミングなのか

従来の制度とその課題

これまで出入国在留管理庁は、強制退去手続き中の外国人について、本人の同意を得た上で居住する市町村に個人情報を提供していました。また、市町村側から照会があった場合には、本人の同意なしで通知する制度もありましたが、その利用はごくわずかでした。

この仕組みには大きな課題がありました。強制退去命令が出ると住民票が失われるため、提供に同意しない外国人の居住実態を市町村が全く把握できなくなるのです。その結果、義務教育や予防接種などの住民サービスの提供が困難になり、さらには行方不明となる事例も発生していました。

高まる在留管理の必要性

日本における外国人人口は年々増加しており、それに伴い在留管理の重要性も高まっています。2025年のデータによれば、強制退去命令が出た外国人は7,722人に上り、仮放免は2,429人、監理措置は1,546人という数字が示されています。

逃亡や逃亡の恐れがあるとして、仮放免が取り消されたケースは133件、監理措置が取り消されたケースは60件と、合計193件の取り消し事例が発生しました。これらの数字は、適切な居住管理の必要性を如実に示しています。

新制度の具体的な内容

プッシュ型情報提供とは

7月から開始された新制度では、強制退去手続き中の外国人が新たに居住する全自治体に対し、以下の個人情報がプッシュ型で毎月通知されます:

  • 氏名
  • 住所
  • 国籍
  • 生年月日

「プッシュ型」とは、自治体からの照会を待つことなく、入管庁側から能動的に情報を提供する方式です。これにより、情報提供の漏れや遅延を防ぐことができます。

年次一覧提供による精度向上

さらに、更新に漏れがないよう、毎年6月時点で各自治体に住む強制退去手続き中の外国人全員の情報が一覧で通知されます。月次の個別通知と年次の一覧提供を組み合わせることで、情報管理の精度が大幅に向上します。

個人情報保護との兼ね合い

この制度変更は、個人情報保護の観点からも慎重に設計されています。提供される情報は、居住管理と行政サービス提供に必要最小限の項目に限定されており、目的外使用は厳しく制限されています。

在日外国人とご家族への影響

仮放免と監理措置について

出入国管理・難民認定法では、不法残留や在留資格外の活動をした場合、強制退去の対象となります。しかし、すぐに強制送還されるわけではありません。審査や出国手続き、難民申請などの間は、国内に滞在できる制度があります。

仮放免は、病気などで配慮が必要な人が対象となる制度です。収容施設外での生活が認められますが、就労は原則として禁止されています。

監理措置は、知人など監督者がいることを条件に、施設外での生活を認める制度です。こちらも原則として就労はできませんが、一定の条件下で許可される場合もあります。

居住情報の共有がもたらす変化

今回の制度変更により、仮放免や監理措置で地域に暮らしている方々の居住情報が、自動的に市町村と共有されることになります。

これは監視強化と受け取られるかもしれませんが、むしろ必要な行政サービスを受けられるようにする側面もあります。子どもの義務教育、予防接種、健康相談など、地域で暮らす上で欠かせないサービスへのアクセスが改善される可能性があります。

在留資格管理の重要性

この制度変更は、在留資格の管理がより厳格になったことを意味します。在留期限の管理、許可された活動範囲の遵守は、これまで以上に重要になっています。

不法残留や資格外活動は強制退去の対象となり、その後の再入国にも大きな影響を及ぼします。在留資格に不安がある場合は、早めに専門家に相談することが賢明です。

企業の経営者・人事担当者が知っておくべきこと

外国人雇用における在留資格管理の重要性

外国人を雇用する企業にとって、在留資格管理は法令遵守の基本であり、企業の社会的信用に直結する重要な業務です。

今回の制度変更は、直接的には強制退去手続き中の外国人が対象ですが、より広い文脈では、外国人の在留管理全体が厳格化していることを示すシグナルと捉えるべきでしょう。

採用時の確認事項

外国人を採用する際には、以下の点を必ず確認する必要があります:

  1. 在留資格の種類: その在留資格で就労が可能か
  2. 就労時間の制限: 特に留学生などは週28時間以内の制限があります
  3. 職種の制限: 在留資格によっては就ける職種に制限があります
  4. 在留期限: 期限が迫っていないか、更新手続きの予定は

継続的なモニタリング体制

採用時の確認だけでなく、継続的なモニタリングが重要です:

  • 在留期限の管理: 更新時期を把握し、従業員に事前に通知する
  • 業務内容の確認: 当初の雇用契約と実際の業務が一致しているか
  • 資格外活動の防止: 副業などが資格外活動に該当しないか

万が一のリスク管理

従業員が強制退去手続きの対象となった場合、企業としてどう対応するか、事前に方針を定めておくことが望ましいでしょう。

不法就労助長罪という罰則もあり、知らなかったでは済まされません。在留資格を確認せずに外国人を雇用した場合、企業側も処罰の対象となる可能性があります。

専門家との連携

在留資格に関する法律は複雑で、頻繁に改正されます。自社だけで対応するのではなく、行政書士などの専門家と連携する体制を整えることをお勧めします。

定期的な社内研修や、疑問点が生じた際の相談体制を構築することで、リスクを大幅に低減できます。

制度変更の意義と今後の展望

地域共生社会の実現に向けて

今回の制度変更は、単なる管理強化ではありません。外国人が地域社会で安心して暮らせる環境を整えると同時に、適正な在留管理を実現するという、両面の目的があります。

市町村が居住実態を把握することで、必要なサービスを提供しやすくなり、地域での共生がより円滑になることが期待されます。

今後の在留管理の方向性

日本の労働力不足を背景に、外国人材の受け入れは今後も拡大していくでしょう。一方で、適正な在留管理の重要性も増していきます。

デジタル技術を活用した在留管理の効率化、自治体・企業・専門家の連携強化など、さまざまな取り組みが進められていくと考えられます。

私たちにできること

在日外国人の方々は、ご自身の在留資格を正確に理解し、期限管理を徹底することが大切です。不明点があれば、早めに専門家に相談しましょう。

企業の経営者・人事担当者は、在留資格管理を単なるコンプライアンス業務ではなく、外国人従業員が安心して働ける環境づくりの一環として捉え、積極的に取り組むことが求められます。

そして専門家である私たち行政書士は、制度変更を的確に把握し、依頼者の皆様に正確な情報と適切なアドバイスを提供し続ける責任があります。

まとめ

2026年7月から開始された、強制退去手続き中の外国人情報の市町村への自動提供制度は、在留管理の新しい局面を示すものです。

この変更は、地域社会での外国人の居住実態を把握し、必要なサービスを提供しやすくする一方で、在留資格管理の厳格化を示すものでもあります。

在日外国人の方々、そのご家族、外国人を雇用する企業の皆様にとって、在留資格の適正管理がこれまで以上に重要になっています。

ビザ申請や在留資格について不安なことがあれば、ぜひ専門家にご相談ください。適切な手続きと情報管理が、安心な生活と事業運営につながります。

参考記事: https://news.yahoo.co.jp/articles/328e6de49bdaf4fc1bc81b3f4c799d253b2e56b4