はじめに

2026年7月25日、外国人の永住許可要件が厳格化され、新たに年収や年金の受給見込み額を追加する方針が報道されました。年収が日本人世帯の平均を上回ることや、年金の受給見込み額が厚生年金に30年加入していた水準に達していることを原則として求めるという内容です。

10月1日付でガイドラインが改定され、2027年4月の申請分から原則適用される見通しです。

この報道を受け、全国の外国人コミュニティや外国人を雇用する企業、そして私たち行政書士のもとには、多くの不安の声が寄せられています。

私自身、外国人の在留資格や永住許可申請を専門に扱う行政書士として、この制度変更には複雑な思いを抱いています。

本記事では、今回の永住許可厳格化の背景、現場で起きている混乱、そして本当に必要なのは何かについて、実務家の視点から考察します。


永住許可制度とは何か

まず、日本の永住許可制度について簡単に整理しておきましょう。

日本には「永住権」という制度は存在しません。正確には「永住許可」です。

これは非常に重要な違いです。

「権利」ではなく「許可」である以上、本来は明確な基準に基づき、公平・公正に審査されるべきものです。

現在のガイドラインでは、永住許可の要件として以下の3点が定められています。

  1. 素行が善良であること
  2. 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
  3. その者の永住が日本国の利益に合すると認められること

出入国在留管理庁によると、2025年末時点で、永住者は約94万7000人に上ります。


今回の厳格化の内容

今回報道された新しいガイドラインでは、年収に関して原則、日本人世帯の平均を上回っており、その年収で将来受給できる年金額が厚生年金に30年加入していた水準に達していることを要件とするとされています。

不足する場合は、補充できる預貯金などがあれば「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」を満たすと評価するとのことです。

また、「その者の永住が日本国の利益に合すると認められること」については、新たな基準も設け、「自立した言語使用者」とされる日本語能力や、日本の制度・ルールについての理解度も考慮するとされています。


私が厳格化そのものに賛成する理由

まず最初に申し上げておきたいのは、私自身、永住許可制度を一定程度厳格化するという方向性そのものには賛成だということです。

その理由は以下の通りです。

1. 日本社会の持続可能性を考える必要がある

日本は少子高齢化が急速に進んでおり、生産年齢人口は今後も減少していきます。

このような中で、日本社会をどのように維持していくのか、社会インフラや年金・社会保険制度を将来にわたって持続可能なものとしていくのかは、私たち全員が考えなければならない重要な課題です。

2. 日本人との公平性を保つ必要がある

長年にわたり日本で働き、税金や社会保険料を納めながら日本社会を支えてきた日本人との公平性や、永住許可を取得する外国人とのバランスをどのように保つかという観点からも、一定の基準を設けることは理解できます。

3. 制度を明確にすることで、真面目に働く外国人を守ることができる

明確な基準を設けることで、本当に日本で長く暮らし、日本社会に貢献しようとしている外国人を正当に評価し、保護することができます。


問題は「厳格化」ではなく「曖昧さ」である

しかし、今回の制度変更において私が最も問題だと感じているのは、「厳格化」そのものではありません。

基準が曖昧なまま制度だけが変更されているという点です。

現行ガイドラインの曖昧さ

現行の永住許可ガイドラインには、「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」など抽象的な表現が多く、実際にはどの程度の年収が必要なのか、どの程度の年金加入実績が求められるのかなど、具体的な数値が示されていません。

具体的な数値が示されないことの問題

もし年収要件を設けるのであれば、「年収○○万円以上」というように明確な基準を示せばよいのです。

年金加入期間や受給見込みについても、具体的な数値を公表し、その基準に基づいて公平・公正に審査すれば、多くの不安は解消されます。

制度を厳格にすることと、制度を不透明にすることは全く別の話です。


現場で起きている混乱と不安

今回の報道を受け、現場では大きな混乱と不安が広がっています。

私の事務所に寄せられた相談

実際、今年春に厳格化の報道が出て以降、私の事務所には20件を超える相談や問い合わせが寄せられました。

昨年にはほとんど見られなかった相談内容です。

私の事務所は北海道の地方にある小さな事務所ですが、それでもこれだけ多くの相談が寄せられているということは、全国では相当数の外国人が不安を抱えていると考えられます。

不安を抱えている方々

以下のような方々が不安を抱えています。

  • これから永住許可を申請しようとしている方
  • 現在審査中の方
  • すでに永住許可を取得して生活している方

正規在留者に不安を与えることの問題

正規の在留資格で生活し、真面目に働き、日本で税金を納め、日本社会に貢献している外国人に対して、このような不必要な不安や混乱を与える制度運用は決して望ましいものではありません。


外国人雇用を行う企業への影響

今回の制度変更は、外国人本人だけでなく、外国人を雇用する企業にも大きな影響を及ぼします。

採用計画への影響

永住許可の取得可能性は、外国人材を雇用する際の重要な要素です。

基準が曖昧なままでは、企業側も採用計画や人材育成の見通しが立てにくくなります。

人材定着への影響

特に、観光業や宿泊業、飲食業など、外国人材に大きく依存している業界では、永住許可の取得が人材定着の鍵となります。

ニセコ・倶知安エリアのように外国人が多く働く地域では、この制度変更が地域経済に与える影響は無視できません。


本当に必要なのは「明確化」である

私が強く主張したいのは、必要なのは「厳格化ありき」の制度ではなく、明確な基準を示し、誰もが将来を見通せる制度をつくることだということです。

透明性のある制度設計の重要性

制度設計は、日本人だけの利益を考えて作られるべきものではありません。

日本社会の一員として働き、税金を納め、地域社会を支えている外国人もまた、この国を構成する大切な存在です。

私たちが日々当たり前のように利用しているサービスや産業も、多くの外国人労働者によって支えられています。

私たちの目に見えないところで汗を流し、日本社会を支えている人たちがいることを忘れてはなりません。

日本人と外国人の双方にとって納得できる制度

だからこそ、制度変更を行う際には、日本人と外国人の双方にとって納得できる透明性と公平性が必要です。


今後、外国人と企業が取るべき対応

それでは、今回の制度変更を受けて、外国人本人や外国人を雇用する企業はどのような対応を取るべきでしょうか。

外国人本人が取るべき対応

  1. 最新情報を常にチェックする
    出入国在留管理庁の公式ウェブサイトや信頼できる情報源から、最新の情報を入手しましょう。
  2. 専門家に相談する
    不安や疑問がある場合は、早めに行政書士などの専門家に相談することをお勧めします。
  3. 年収や年金加入状況を整理する
    自分の年収や年金加入状況を整理し、新しい基準に照らして自分がどの位置にいるのかを把握しましょう。
  4. 日本語能力の向上に努める
    新しいガイドラインでは、日本語能力や日本の制度・ルールについての理解度も考慮されるとされています。日本語能力の向上に努めることは、永住許可取得だけでなく、日本での生活全般においてもプラスになります。

企業が取るべき対応

  1. 外国人スタッフへの情報提供
    外国人スタッフに対して、制度変更の内容を分かりやすく説明し、必要に応じて専門家への相談を促しましょう。
  2. 給与体系の見直し
    年収要件が明確になった場合、外国人スタッフが永住許可を取得できるよう、給与体系を見直すことも検討しましょう。
  3. 厚生年金加入の徹底
    厚生年金への加入を徹底し、外国人スタッフが将来にわたって安心して働ける環境を整えましょう。
  4. 専門家との連携
    外国人雇用に詳しい行政書士や社会保険労務士と連携し、制度変更に適切に対応できる体制を整えましょう。

おわりに

日本社会の持続的な発展、経済の安定、そして私たち自身が安心して老後を迎えられる社会を実現するためには、日本人と外国人が互いに信頼し、共生できる環境を整えることが何より重要です。

制度とは、人を不安にさせるためにあるものではありません。

社会の秩序を守りながら、そこに暮らすすべての人が安心して将来を描けるようにすることこそ、本来あるべき制度の姿ではないでしょうか。

私は、行政書士として、外国人の方々が安心して日本で暮らし、働き、夢を実現できるよう、これからも誠実に支援を続けていきます。

永住許可に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

記事URL:
https://www.sankei.com/article/20260725-G6QXBOZ22NOMPCBZO32LGA7R7E/