はじめに:北海道における外国人材受入れの現状と課題

北海道では、介護・福祉、観光、宿泊、飲食など多くの産業で外国人材の受入れが進んでいます。特に技能実習生や特定技能の在留資格で働く外国人の数は年々増加しており、地域経済や公共サービスの維持に欠かせない存在となっています。

しかし同時に、早期離職という深刻な課題も顕在化しています。特に北海道では、冬の厳しい寒さ、移動手段の制約、娯楽施設の少なさといった生活環境の違いが、外国人材にとって大きなストレス要因となっています。東南アジアの温暖な気候から来た技能実習生にとって、氷点下を下回る気温や雪に閉ざされた生活は、想像以上に厳しいものです。

このような背景の中、小樽市が外国人介護職員の離職防止を目的とした交流事業に取り組んでいます。今回は、その事例を詳しく見ながら、地域と外国人材がどのように共生していくべきかを考えます。

小樽市の取り組み:モルック交流会とその意義

2026年6月28日、小樽市のウイングベイ小樽で、外国人介護職員を対象にしたモルック交流会が開催されました。モルックとは、フィンランド発祥のスポーツで、木の棒を投げて的を倒すシンプルなゲームです。ルールが簡単で、言葉の壁を超えて楽しむことができるため、多文化交流の場で注目されています。

この日、参加したのはインドネシア、中国、ニュージーランド出身の介護職員9名。「楽しい。ゲームは難しいけど、おもしろくてなかなかやめられない」と、参加者から笑顔の声が上がりました。

小樽市福祉保険部の担当者は、「せっかく小樽に来てくれたので、長く住んで好きになってもらいたい」と語っています。この言葉には、外国人材を単なる「労働力」としてではなく、「地域の一員」として迎え入れたいという明確な意思が感じられます。

小樽市では、近年外国人介護職員が増加している一方で、早期離職も多く、地域の介護サービス維持に支障をきたしかねない状況にありました。そこで2023年から、地域への定着を目的とした交流会や研修会を積極的に開催しています。今後も7月以降、さらに研修会などを計画しているとのことです。

北海道で働く外国人材が抱える現実

私自身、東京から北海道に移住してきた経験があります。正直に言うと、北海道の冬は厳しい。移動も大変で、活動も制限されます。ウインタースポーツなど積極的に楽しむ余裕があれば別ですが、東南アジアから働きに来た技能実習生や特定技能人材にとって、冬の生活はさらに厳しいものです。

彼ら彼女らの多くは、母国の家族に仕送りをしています。生活費を切り詰め、自由に使えるお金が限られている中で、娯楽施設に行ったり、趣味を楽しんだりする余裕はありません。冬は外出も億劫になり、孤立感が深まります。

「もっと暖かい地域で働きたい」「給料の高い場所に移りたい」——こうした気持ちは、否定できるものではありません。むしろ、率直で自然な感情です。私自身、北海道の冬を何度も経験して、その厳しさを実感しています。

だからこそ、地域が一体となって、外国人材が「ここで暮らし続けたい」と思える環境を整えることが重要なのです。

離職防止は事業者だけの課題ではない

外国人材の離職は、受入れ事業者にとって経営上の大きな打撃です。採用コスト、育成コスト、在留資格申請の手続きコストなど、多大な投資をしてようやく受け入れた人材が短期間で辞めてしまえば、事業の継続そのものが危うくなります。

しかし、この問題を事業者だけの責任にしてはいけません。特に介護や福祉の分野は、地域の公共サービスそのものです。介護職員が不足すれば、高齢者が必要なケアを受けられなくなり、地域全体の生活の質が低下します。それは日本人住民にとっても深刻な問題です。

つまり、外国人材の定着支援は、地域社会全体で取り組むべき課題なのです。小樽市のように、自治体が主体となって交流会や研修会を開催する意義はここにあります。

他の地域が学ぶべきポイント

小樽市の取り組みから、北海道の他の地域、特に外国人技能実習生や特定技能人材が増えている地方部が学べるポイントは多くあります。

1. 自治体主導の交流機会の創出

事業者だけでは、業種や企業の枠を超えた交流の場を作ることは困難です。自治体が主導することで、複数の事業者に所属する外国人材が一堂に会し、横のつながりを作ることができます。孤立感の解消、情報交換、そして「仲間がいる」という安心感は、離職防止に大きな効果があります。

2. 言葉の壁を超えた活動の選定

モルックのように、言葉がなくても楽しめるスポーツやゲームは、多文化交流に最適です。日本語能力がまだ十分でない外国人材でも、対等に参加でき、達成感を得ることができます。こうした体験が、地域への親しみを育てます。

3. 継続的な支援体制の構築

小樽市は、単発のイベントで終わらせず、7月以降も研修会などを継続的に実施する計画を持っています。一度きりの交流では効果は限定的です。定期的に顔を合わせる機会を作ることで、信頼関係が生まれ、地域への愛着が深まります。

やさしい日本語と地域住民による手作り支援の可能性

小樽市の取り組みに加えて、私がぜひ広がってほしいと考えているのが、「やさしい日本語」の普及と、地域住民による手作りの支援活動です。

「やさしい日本語」とは、外国人にもわかりやすいように配慮した簡潔で明確な日本語表現のことです。例えば、「ご不明な点がございましたら」ではなく「わからないことがあったら」、「避難してください」ではなく「逃げてください」といった表現です。

行政窓口、医療機関、職場でのコミュニケーションに「やさしい日本語」を取り入れるだけで、外国人材の不安や孤立感は大きく軽減されます。専門的な通訳を用意できない場面でも、やさしい日本語なら誰でもすぐに実践できます。

さらに、地域住民が主体となった手作りの支援活動も有効です。たとえば、地域の祭りやイベントへの招待、日本語教室の開催、ゴミ出しや公共交通機関の使い方を教える生活オリエンテーションなど、小さな取り組みが積み重なることで、外国人材は「受け入れられている」と実感できます。

こうした支援は、専門知識や多額の予算がなくても、地域の人々の善意と工夫で実現できます。外国人材を「支援の対象」としてだけ見るのではなく、「地域の一員」「共に暮らす仲間」として迎え入れる姿勢が大切です。

在留資格と地域定着の関係

在留資格の観点からも、外国人材の地域定着は重要な意味を持ちます。

技能実習制度や特定技能制度は、いずれも一定期間の就労を前提としていますが、離職や転職が頻繁に起きると、在留管理上の問題が生じることがあります。特に技能実習では、原則として転職が認められていません。離職した場合、帰国を余儀なくされることもあります。

一方、特定技能では転職が可能ですが、転職先を見つけるまでの期間が長引けば、在留期限の問題や生活費の問題に直面します。地域に信頼できる支援体制があれば、トラブル時の相談先として機能し、無理な離職や違法な就労を防ぐことにもつながります。

また、将来的に「特定技能2号」や他の在留資格への移行を目指す外国人材にとって、安定した就労実績と地域社会との良好な関係は、申請時の重要な要素となります。地域に根ざした生活基盤があることは、本人のキャリア形成にもプラスに働きます。

外国人材を「労働力」から「地域の一員」へ

外国人材の受入れを考えるとき、私たちはどうしても「人手不足を補う労働力」という視点に偏りがちです。しかし、彼ら彼女らは人間であり、感情を持ち、夢を持ち、家族を持つ一人ひとりの個人です。

仕事だけでなく、日常生活、人間関係、地域社会との関わりのすべてが、その人の「生活の質」を形作ります。地域に居場所があり、仲間がいて、「ここで暮らしたい」と思える環境があれば、自然と定着します。逆に、孤立感や疎外感が強ければ、いくら給料が良くても長続きしません。

小樽市の取り組みは、外国人材を「労働力」としてだけ見るのではなく、「地域の一員」として迎え入れる姿勢を明確に示しています。この視点こそが、持続可能な地域社会を作るうえで不可欠なのです。

北海道全域への広がりを期待して

北海道では、ニセコや倶知安をはじめ、多くの地域で外国人材が働いています。観光業、宿泊業、飲食業、農業、漁業、介護・福祉——あらゆる産業で、外国人材の存在が地域を支えています。

しかし、地域によって受入れ体制や支援の質には大きな差があります。事業者に任せきりで、自治体や地域住民の関わりが薄い地域も少なくありません。

小樽市のような取り組みが、北海道全域に広がることを強く期待しています。特に、外国人技能実習生や特定技能人材が増えている地方部においては、この事例を参考に、自分たちの地域でできることを考え、実行に移してほしいと思います。

まとめ:伴走する支援とは何か

私は行政書士として、外国人材の在留資格申請や受入れ企業の支援に携わっています。その中で常に感じるのは、制度や手続きだけでは人の人生は変わらないということです。

ビザが取れたからといって、それがゴールではありません。そこからが本当のスタートです。仕事、生活、人間関係、地域社会との関わり——そのすべてが整ってはじめて、その人の人生は前に進みます。

小樽市の取り組みは、制度の枠を超えて、人の人生に寄り添う支援の形を示しています。それは行政書士としての私の理念とも重なります。

外国人材が安心して暮らし、働き、地域の一員として受け入れられる社会をつくること。それは事業者だけでも、行政だけでもできません。地域全体で、一人ひとりができることを持ち寄り、手作りで支えていく。そんな温かい社会が、北海道のあちこちで生まれることを願っています。

記事URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/60a5f4ed7e015a7a863c03aef0fe84fc321a1259