1. 外国資本による土地取得に、新たな規制が始まります

2025年10月、国土交通省は「国土利用計画法施行令」等を改正し、一定規模以上の土地取得時に取得者の国籍などを届け出ることを義務化しました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/6bc0a3c38235915901a6fff615a76851f116f415

これまでの制度でも、一定面積以上の土地を取得した場合、都道府県や政令指定都市への届け出が必要でしたが、取得者の国籍は届け出項目に含まれておらず、国や自治体は外国資本による土地取得の実態を十分に把握できない状態が続いていました。

今回の改正により、取得者の国籍等を明示的に届け出る義務が加わったことで、外国人や外国法人による土地の購入実態の可視化が図られます。

本記事では、行政書士の立場から、法改正の背景と内容、企業にとっての注意点、そして今後の対応について詳しく解説します。


2. なぜ国籍の届け出が義務化されたのか?

この制度改正の背景には、日本国内の水源地や農地、森林などが外国資本によって買収されるケースが増加しているという現状があります。

例えば、

  • 外資系企業による水源地の山林買収
  • 外国人投資家による農地の取得
  • リゾート開発目的の大規模な森林取得

といった事例が各地で確認されており、これらが安全保障や環境保全の観点から問題視されてきました。

しかし、現行制度では「誰が取得したのか」という点に関する情報が乏しく、国籍の確認ができないため、対策を講じることが困難でした。

今回の法改正は、こうした背景を受けて、外国人または外国資本による土地取引の透明性を高めることを目的に実施されたものです。


3. 対象となる土地の種類と面積

国籍の届け出が必要となるのは、以下のような一定規模以上の土地を取得した場合です。

  • 市街化区域(商業地・住宅地など):2,000㎡以上
  • 都市計画区域(農地など):5,000㎡以上
  • 都市計画区域外(山林など):10,000㎡以上

これらは、もともと国土利用計画法に基づいて定められていた「現行の届け出基準」であり、今回の法改正でも変更はありません

つまり、今回の改正で「面積の条件や区域区分」が新たに追加・変更されたわけではなく、既存の届け出制度に『取得者の国籍情報の記載義務』が新たに加わったという点がポイントです。

この基準に該当する土地を取得した場合は、従来通り取得日から2週間以内に、都道府県または政令指定都市への届け出が必要です。

法改正によって提出書類の項目が拡充され、「誰が取得したのか(国籍・法人の設立国など)」を明確にすることで、取引の透明性を高め、外国資本による土地買収の実態把握が可能になります。


4. 届け出が必要な対象者とは?

届け出の対象となるのは、土地を取得した個人または法人の取得者です。

この「取得者」が外国人、あるいは外国に本拠地を置く法人であった場合、国籍や設立国などの情報を必ず届け出書類に記載する必要があります。

なお、形式的に日本法人が取得者となっていても、その実態が外国資本である場合には、実質的な所有者情報を求められる可能性もあるため、注意が必要です。


5. 外国人・外国企業が関与するケースの注意点

外国籍の個人が日本国内で不動産を取得するケースは年々増加しており、とくに以下のような分野で活発です:

  • 不動産投資目的の都市部物件取得
  • セカンドハウスとしての別荘購入
  • 事業用地としての工場・施設用地取得

一方で、外国法人や外資系企業による土地購入では、現地法人を介した取得や、業務提携先企業による名義取得など、一見すると日本企業の取引に見えるケースもあります。

今回の改正により、こうした「外国資本が関与しているかどうか」をより厳密にチェックされる時代に入ったといえるでしょう。


6. 雇用企業が知っておきたい実務ポイント

外国人従業員を雇用する企業にとっても、今回の改正は他人事ではありません。

外国人従業員が日本で住宅用地を購入する場合や、役員が会社名義で事業用地を取得する場合にも、以下の点に注意が必要です。

  • 土地取得面積が基準を超えているかの確認
  • 国籍や在留資格などの本人情報の整理
  • 届け出書類の準備や期限管理
  • 社内の相談体制や専門家との連携体制の整備

中でも「期限管理(取得から2週間以内の提出)」を怠ると、法令違反となり、勧告や罰則の対象となるリスクもあります。


7. 行政書士が支援できること

こうした制度変更の対応においては、行政書士が力を発揮します。

  • 国籍や設立国に関する情報整理の支援
  • 届け出書類の作成と提出手続きの代行
  • 不動産取引に関するリーガルチェック
  • 外国人とのコミュニケーション支援(多言語対応)

とくに、在日外国人や外国企業にとっては、日本語の法令文や行政手続きが障壁になりやすく、行政書士がその「橋渡し役」として円滑な手続きを支援することができます。


8. 今後の展望:制度はより厳格化されるのか?

今回の改正は、「土地取得段階での国籍把握」を目的とした第一歩です。

今後は、土地取得後の利用状況や、外国資本の実質的支配の有無など、さらに踏み込んだ規制や監視制度が検討される可能性もあります。

また、他の法制度、たとえば「重要土地調査法(いわゆる土地規制法)」などとの連動も強化される可能性があるため、企業・個人ともに法令動向には引き続き注視が必要です。


9. よくある質問Q&A

Q. 今回の制度は、すでに土地を持っている外国人にも適用されますか?
→ いいえ。今回の改正はこれから取得するケースが対象であり、既に取得済みの土地について遡って適用されるものではありません。

Q. 日本法人が取得した場合でも、外国資本が出資していると届け出が必要?
→ 名義上の法人が日本国内の法人であっても、実質的に外国資本が関与している場合は、当局が関心を示す可能性があるため、専門家に相談のうえ、適切な対応をおすすめします。

Q. 届け出を怠るとどうなる?
→ 正当な理由なく届け出を怠った場合は、勧告・命令・罰則(50万円以下の過料)の対象になる可能性があります。


10. まとめ:法改正への対応は「信頼構築」の第一歩

今回の法改正により、日本の土地取引における「国籍の可視化」が進むことになります。

これは、安全保障や国土保全といった観点では当然の流れであり、同時に、外国人や外国企業が日本国内で円滑に活動していくためにも、信頼を得る制度的基盤となるものです。

企業としては、外国人従業員の土地取得支援や、事業用地購入時の法令対応などについて、社内体制を見直す良い機会となります。

ニセコビザ申請サポートセンターは、制度の正確な理解と、実務に即したサポートを通じて、企業・個人の双方に安心と信頼を提供して参ります。ご不安な点、ご質問があればお気軽にご相談ください。