■はじめに:不正取得事件が意味するもの

2024年7月、神奈川県警により「経営・管理」の在留資格を不正取得させたとして、スリランカ人の男が逮捕されました。

営業実態のない“ペーパー会社”を使い、虚偽の決算書類を入管に提出するという悪質な手口。
しかもこの容疑者を介して9人が摘発され、600社以上の資料が押収されたと報じられています。

「うちは正規に外国人を雇用しているから関係ない」と思っていませんか?

実はこの問題、在日外国人を雇用している企業や人事担当者にとって、他人事ではありません。

行政書士として現場に立つ私の視点から、今回の事件を通して見えてきた“知らずに関わるリスク”と、“企業が今できる対策”を解説します。


■事件の概要:何が問題だったのか?

神奈川県警の発表によれば、以下のような不正スキームが確認されています。

  1. ペーパー会社を設立・運営
  2. 外国人をその従業員や経営者として形式的に据える
  3. 虚偽の決算書や登記書類を準備
  4. 入管に提出し、「経営・管理」や「技術・人文知識・国際業務(技人国)」の在留資格を取得

つまり、実態のない企業活動を“演出”し、あたかも正当なビザ取得であるかのように見せかけていたのです。

入管の審査は厳格ですが、書類上の整合性が取れていれば見抜くのは困難な場合もあります。
企業として「協力」したつもりがなくても、結果的に不正取得に加担していたと判断されるリスクがあるのです。


■外国人雇用で見落としがちな「法的責任」

外国人を雇用する際、多くの企業が見落としてしまうのが以下のポイントです。

・在留資格と業務内容の不一致
・形式的な役職付けによる「経営・管理」ビザ取得
・ブローカーや代行業者を介した不透明な申請

とくに「経営・管理」ビザは取得ハードルが高いため、手続きを請け負う業者がリスクのある提案をしてくるケースもあります。

「会社を貸してくれれば月々〇万円払います」
「役員名だけ変えればOKです」

──このような甘い言葉には、必ず裏があります。

実際、これまで行政書士として相談を受けてきた中でも、知らないうちに名義貸しをしてしまっていたり、在留資格と仕事内容が合っていなかったケースが複数あります。

企業としての信用を守るためにも、外国人雇用には正しい知識と体制が必要不可欠です。


■行政書士の視点:ここが危ない!

今回の事件から見えてきた「企業が知らずに巻き込まれやすいポイント」は次の5つです。

1. 名義貸しのリスク

「代表取締役になってくれ」と頼まれ、実際の経営に関与していないのに就任した場合、それは“名義貸し”です。
これは在留資格不正取得に加担したと見なされる可能性があります。

2. 実態のない雇用契約

「技人国」などで外国人を雇用する際に、実際には業務がない、または専門性がない業務をさせていると、偽装雇用になります。

3. 外部業者任せにしすぎる

ブローカーや無資格の代行業者が申請を取り仕切ると、企業側が中身を理解していないまま進んでしまうケースも。

「委任しているから安心」ではなく、内容の確認・管理が企業の責任です。

4. 曖昧な業務内容

外国人が従事する業務が在留資格の範囲外であると、不法就労助長罪になる可能性も。
例:エンジニアとして雇用したのに倉庫作業や接客をメインにしている、など。

5. 知人紹介・口利き採用

「信頼している人の紹介だから」と精査を怠ると、後々問題が発覚したときに言い訳は通用しません。


■今すぐ企業が取るべき対応策

今回のような事件に巻き込まれないために、企業ができる実務的な対策は以下の通りです。

・在留資格の種類と要件を把握する
・採用時にビザの確認と業務適合性のチェックを徹底
・在留資格変更や更新のタイミングで業務内容と一致しているか再確認
・申請を代行する行政書士に「実績」や「登録資格」があるか確認
・曖昧な申し出(会社貸し・名義変更など)には必ず専門家の意見を仰ぐ


■まとめ:外国人雇用を“経営リスク”にしないために

外国人材は日本社会にとって、そして多くの企業にとって必要不可欠な存在です。

しかし、制度を正しく理解しないまま採用や支援を行えば、思わぬ法的リスクに直面します。

特に「経営・管理」や「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格に関しては、制度が複雑で専門知識を必要とする場面も多くあります。

今回の事件を教訓に、企業も人事担当者も「正しい外国人雇用」に向けて一歩踏み出すタイミングです。

不安なこと、迷うことがあれば、お気軽にご相談ください。
行政書士として、実務に即したご支援をさせていただきます。