はじめに

2026年8月、埼玉県川口市で発生したベトナム料理店での不法就労事件は、外国人雇用における「資格外活動許可」の重要性を改めて浮き彫りにしました。この事件では、留学および家族滞在の在留資格を持つ従業員3名が、週28時間という法定時間を超えて就労していたことが問題となり、経営者が入管難民法違反で逮捕されました。

本記事では、資格外活動許可の基礎から実務上の注意点まで、在日外国人の方々と外国人を雇用する企業の人事担当者の方々に向けて、包括的に解説します。

1. 資格外活動許可とは何か

1-1. 制度の基本概念

「資格外活動許可」とは、現在持っている在留資格で認められた活動以外の活動で、報酬を受ける活動を行う場合に必要となる許可です。例えば、留学生は本来「勉強する」ことを目的として日本に滞在しているため、アルバイトをするには別途この許可が必要になります。

1-2. 対象となる在留資格

資格外活動許可が必要となる主な在留資格:

  • 留学
  • 家族滞在
  • 文化活動

これらの在留資格は就労を主目的としないため、収入を得る活動をする場合は許可が必須です。

1-3. 許可の種類

資格外活動許可には2つのタイプがあります:

包括許可

  • 週28時間以内の労働が可能
  • 学校の長期休業期間中は40時間以内
  • 勤務先や業種の制限なし(風俗関連を除く)

個別許可

  • 特定の勤務先・業務内容で許可
  • 時間制限は個別に設定
  • 転職時は再申請が必要

2. 週28時間ルールの詳細

2-1. なぜ28時間なのか

週28時間という制限は、本来の在留目的(学業や家族生活)を妨げないよう設定されています。1日4時間×週7日、または週末を活用した配分が想定されています。

2-2. 時間計算の注意点

  • 複数アルバイトの合算: 複数の職場で働く場合、すべての労働時間を合計して週28時間以内に収める必要があります
  • 週の起算日: 暦週(日曜日から土曜日)で計算されます
  • 休憩時間の扱い: 休憩時間は労働時間に含まれませんが、手待ち時間は含まれます

2-3. 長期休業期間の特例

教育機関が学則で定める夏季・冬季・春季休業期間中は:

  • 週40時間程度まで可能
  • 学校が発行する在学証明書等で確認が必要

3. 今回の事件から学ぶ教訓

3-1. 事件の概要

川口市のベトナム料理店では、2026年3月から6月までの間、ベトナム国籍の従業員3名を規定時間を超えて就労させていました。従業員は「生活費のため」に長時間労働をしていたと供述しています。

3-2. 経営者側の問題点

経営者は:

  • 従業員の労働時間を適切に管理していなかった
  • 労働時間について虚偽の申告をしていた
  • 過去に2度、労働基準法違反で逮捕されていた

この連続的な違反行為は、組織的な法令無視の姿勢を示しています。

3-3. 従業員側のリスク

従業員3名のうち2名は入管難民法違反(資格外活動)で逮捕されました。たとえ「生活費のため」という事情があっても、法律違反の事実は変わりません。

4. 雇用企業が守るべき法的義務

4-1. 雇用前の確認義務

在留カードの確認

  • 表面:氏名、生年月日、在留資格、在留期限
  • 裏面:資格外活動許可の有無(許可印の確認)
  • 有効期限の確認

偽造カードの見分け方

  • ホログラムの有無
  • ICチップの搭載確認
  • 入管庁の在留カード番号失効情報照会システムで確認

4-2. 労働時間管理の義務

  • タイムカードやシフト表での正確な記録
  • 他のアルバイト先での労働時間の確認
  • 週ごとの労働時間の集計と確認
  • 長期休業期間の確認と時間管理の変更

4-3. 記録保持義務

労働基準法により、以下の記録を3年間保存する義務があります:

  • 労働者名簿
  • 賃金台帳
  • 出勤簿
  • 在留カードのコピー

4-4. 定期的な更新確認

在留資格や資格外活動許可は期限があります:

  • 在留期限の確認(3ヶ月前から更新可能)
  • 許可内容の変更確認
  • 卒業や在留資格変更の把握

5. 違反した場合の罰則

5-1. 雇用主への罰則

入管法違反(不法就労助長罪)

  • 3年以下の懲役
  • または300万円以下の罰金
  • またはこれらの併科

労働基準法違反

  • 6ヶ月以下の懲役
  • または30万円以下の罰金

企業への影響

  • 社会的信用の失墜
  • 取引先との関係悪化
  • 今後の外国人雇用への制限

5-2. 労働者への罰則

強制退去
資格外活動違反は退去強制事由に該当します。退去強制された場合:

  • 5年間(悪質な場合は10年間)は日本への入国が禁止
  • 家族も影響を受ける可能性

在留資格の取消
法務大臣により在留資格が取り消される可能性があります。

将来への影響

  • ビザの更新・変更申請時の不利益
  • 永住許可申請への悪影響
  • 帰化申請の却下理由に

6. 正しい雇用のためのチェックリスト

6-1. 採用時

□ 在留カードの確認(表裏両面)
□ 資格外活動許可の有無確認
□ 在留期限の確認
□ 他のアルバイト先の有無確認
□ パスポートでの入国記録確認
□ 雇用契約書の作成
□ ハローワークへの届出

6-2. 雇用中

□ 毎週の労働時間の集計と確認
□ シフト作成時の時間チェック
□ 長期休業期間の確認と時間調整
□ 定期的な在留カード確認(3ヶ月ごと推奨)
□ 適正な賃金の支払い
□ 労働条件の明示

6-3. 雇用終了時

□ 労働記録の保管(3年間)
□ ハローワークへの届出
□ 未払い賃金の精算
□ 社会保険の手続き

7. よくある質問(FAQ)

Q1: 複数のアルバイトを掛け持ちしても良いですか?
A: 可能ですが、すべての職場での労働時間の合計が週28時間以内である必要があります。

Q2: 週28時間を数分超えた場合も違反ですか?
A: 法律上は違反となります。ただし、軽微な超過で悪意がない場合は行政指導に留まることもあります。

Q3: 雇用主は従業員が他でどれくらい働いているか確認する義務がありますか?
A: 法的義務までは明確ではありませんが、不法就労助長を避けるため、確認することが強く推奨されます。

Q4: 留学生が卒業後、就職活動中にアルバイトはできますか?
A: 「特定活動」への在留資格変更を行い、新たに資格外活動許可を取得すれば可能です。

Q5: 資格外活動許可なしで働いてしまった場合はどうなりますか?
A: 不法就労となり、強制退去や在留資格取消の対象となります。速やかに専門家に相談してください。

8. 適切な手続きの進め方

8-1. 資格外活動許可の申請方法

申請場所

  • 地方出入国在留管理局
  • 出張所

必要書類

  • 資格外活動許可申請書
  • 在留カード
  • パスポート
  • 学生証(留学生の場合)
  • 在学証明書・成績証明書(留学生の場合)

申請のタイミング

  • 在留資格認定証明書交付申請と同時
  • 入国時の空港
  • 日本国内での追加申請

審査期間

  • 2週間〜1ヶ月程度
  • 空港での申請の場合は即日

8-2. 雇用主のサポート

雇用主ができるサポート:

  • 申請書類の書き方説明
  • 必要に応じた雇用予定証明書の発行
  • 勤務時間管理システムの提供
  • 定期的な相談機会の設定

9. トラブルを避けるための実践的アドバイス

9-1. 外国人労働者へのアドバイス

生活費が足りない場合

  • 奨学金制度の活用
  • 学校の学生課への相談
  • 自治体の支援制度の確認
  • 不法就労は絶対に避ける

困った時の相談先

  • 学校の留学生課
  • 地方出入国在留管理局
  • 外国人在留支援センター(FRESC)
  • 行政書士などの専門家
  • 無料の外国人相談窓口

9-2. 雇用企業へのアドバイス

適正な雇用管理のために

  • 人事担当者への定期的な研修
  • 外国人雇用マニュアルの作成
  • 専門家との顧問契約
  • 業界団体での情報交換
  • デジタルツールでの労働時間管理

コンプライアンス体制

  • 内部監査の実施
  • 法令遵守チェックリストの活用
  • 従業員への教育
  • 問題発見時の迅速な対応

10. まとめ

資格外活動許可は、在日外国人の方々が日本で安定した生活を送るため、そして企業が適正に外国人を雇用するための重要な制度です。

在日外国人の方へ

  • 週28時間のルールを厳守しましょう
  • 複数の仕事をする場合は合計時間に注意
  • 困った時は必ず専門家に相談を
  • 短期的な収入のために将来を犠牲にしない

雇用企業の方へ

  • 在留カードと資格外活動許可の確認は必須
  • 労働時間の厳格な管理体制を構築
  • 従業員への適切な説明と教育
  • 法令遵守が企業の信頼につながる

日本で働く外国人の数は年々増加しています。多文化共生社会を実現するためには、ルールを守りながら、お互いを尊重する姿勢が不可欠です。

今回の川口市での事件は、「知らなかった」「仕方なかった」では済まされない法的責任があることを示しています。正しい知識を持ち、適切な手続きを踏むことで、外国人労働者も雇用企業も、安心して働き、事業を展開できる環境を作っていきましょう。

不明な点やお困りのことがあれば、専門家に相談することをお勧めします。適切なアドバイスを受けることで、多くのトラブルを未然に防ぐことができます。

記事元: https://news.yahoo.co.jp/articles/32e778902ba599c188489f4136ff178e5fc071f4