はじめに:他人事ではない不法就労助長のリスク

2026年7月1日、兵庫県警外事課と生田署は、入管難民法違反(不法就労助長)の疑いで、加古川市の土木工事会社の経営者と社員を逮捕しました。この事件は、外国人労働者を雇用するすべての企業にとって、決して他人事ではありません。

容疑者らは「働いてくれるなら誰でもよかった」と供述しており、人手不足に悩む多くの中小企業が抱える切実な状況が背景にあることがうかがえます。しかし、その結果として刑事責任を問われることになりました。

本記事では、この事件を詳しく分析しながら、企業が外国人を雇用する際に知っておくべき法的知識、実務上の注意点、そして適切な対策について解説します。

事件の詳細:何が問題だったのか

事件の概要

逮捕されたのは、加古川市にある土木工事会社の社長(30歳)と、その父親である社員(55歳)です。2人は共謀して、2025年8月から2026年6月までの約10ヶ月間、稲美町の会社敷地内などで、以下の状態にあったベトナム国籍の男性4人を働かせていました:

  • 在留期間が過ぎていた方
  • 資格外活動の許可がなかった方

発覚の経緯

この事件は、2025年1月頃、神戸市内の解体現場でベトナム国籍の元従業員から警察署員が事情を聴いたことがきっかけで発覚しました。その後、県警が関与を調査し、約半年後に逮捕に至っています。

容疑者の認識

報道によると、容疑者らは在留期間などを確認していなかった疑いがあり、「働いてくれるなら誰でもよかった」という趣旨の説明をしているとのことです。この供述は、確認義務を怠ったことを示しており、法的責任を免れることはできません。

不法就労助長罪とは:法律の基礎知識

入管難民法第73条の2

不法就労助長罪は、出入国管理及び難民認定法(入管法)第73条の2に規定されています:

「事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者、外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者又は業として外国人に不法就労活動をさせる行為若しくは前号の行為に関しあっせんした者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」

不法就労活動の3類型

不法就労活動には、次の3つの類型があります:

  1. 不法滞在者の就労:在留期間を超えて滞在している外国人が働くケース
  2. 資格外活動:在留資格で認められていない仕事をするケース(例:留学生が許可なく週28時間以上働く)
  3. 就労不可の資格での就労:観光などの在留資格で働くケース

今回の事件では、1と2のケースが該当すると考えられます。

「知らなかった」は通用しない

重要なのは、雇用主が「知らなかった」と主張しても、確認義務を怠った場合は責任を問われる可能性が高いという点です。入管法は、雇用主に対して在留資格の確認を事実上義務付けており、確認を怠ることは過失として認定されます。

企業が負うリスク:刑事罰だけではない

刑事責任

前述の通り、不法就労助長罪の法定刑は「3年以下の懲役または300万円以下の罰金、またはその併科」です。実際に実刑判決が下されるケースもあり、決して軽い罪ではありません。

企業イメージの毀損

逮捕や起訴の事実は報道され、企業名が公表されることがあります。これにより、企業ブランドが大きく傷つき、顧客や取引先からの信頼を失う可能性があります。

行政処分のリスク

建設業許可や各種営業許可を持つ企業の場合、不法就労助長による有罪判決は、許可の取り消しや更新不可の理由となる可能性があります。

民事上の責任

不法就労を行っていた外国人労働者から、未払い賃金や労災に関する損害賠償を請求されるリスクもあります。

取引先との関係悪化

コンプライアンス意識の高い取引先からは、取引停止や契約解除を通告される可能性があります。

なぜこのような事件が起こるのか:背景にある問題

深刻な人手不足

特に建設業、製造業、農業、介護などの分野では、日本人労働者の確保が極めて困難になっています。「働き手がいないと事業が回らない」という切迫した状況が、確認を怠る背景にあります。

法律知識の不足

中小企業の経営者の中には、入管法や外国人雇用に関する法律知識が十分でない方も少なくありません。「在留カードを見せてもらえば大丈夫」という程度の認識で、詳細な確認方法を知らないケースがあります。

確認の煩雑さ

在留カードの真正性確認、在留資格の種類の理解、資格外活動許可の有無の確認など、適切な手続きは複雑です。日々の業務に追われる中で、これらを確実に実施することが負担になっています。

紹介者への信頼

「知人の紹介だから大丈夫」「前の会社で働いていたから問題ない」といった安易な判断で、自社での確認を省略してしまうケースがあります。

企業が取るべき対策:実務的なチェックポイント

1. 採用時の確認を徹底する

在留カードの原本確認
コピーではなく、必ず原本を確認しましょう。偽造カードも存在するため、ICチップの読み取りや紫外線での確認も有効です。

確認すべき項目

  • 氏名、生年月日、国籍
  • 在留資格の種類
  • 在留期限
  • 就労制限の有無
  • 資格外活動許可の有無(裏面)

出入国在留管理庁のアプリ活用
出入国在留管理庁が提供する「在留カード等番号失効情報照会」を利用して、在留カードの有効性をオンラインで確認できます。

2. 在留期限の管理体制を構築する

管理システムの導入
外国人従業員の在留期限を一元管理できるシステムやスプレッドシートを作成し、期限の3ヶ月前にアラートが出るように設定します。

定期的な確認
少なくとも3ヶ月に1回は、全外国人従業員の在留状況を確認する機会を設けましょう。

3. 就労可能な業務内容を理解する

在留資格ごとの就労範囲
例えば「技術・人文知識・国際業務」の在留資格では、単純労働は認められていません。雇用する業務が在留資格の範囲内であるか、事前に確認が必要です。

資格外活動許可の範囲
留学生の場合、週28時間以内(長期休暇中は40時間以内)という制限があります。時間管理を徹底しましょう。

4. 記録を保管する

確認記録の作成
採用時および定期確認時に、在留カードのコピー、確認日時、確認者を記録として残します。これは、「確認を行った」という証拠になります。

最低3年間の保管
外国人雇用に関する記録は、少なくとも3年間保管することが推奨されます。

5. 従業員への教育

採用担当者への研修
人事部門や採用を担当する従業員に対して、定期的に外国人雇用に関する法律や確認方法の研修を実施します。

外国人従業員への説明
外国人従業員自身にも、在留資格の重要性、更新手続きの必要性を理解してもらうことが大切です。

6. 専門家との連携

行政書士や弁護士への相談
不明な点がある場合は、入管業務を専門とする行政書士や弁護士に相談することで、リスクを大幅に軽減できます。

顧問契約の検討
外国人従業員が多い企業では、専門家との顧問契約により、日常的なサポートを受けられる体制を整えることも有効です。

在日外国人の皆様へ:ご自身を守るために

在留資格の理解

ご自身がどの在留資格で日本に滞在しているのか、その在留資格でどのような仕事ができるのかを正確に理解してください。

在留期限の管理

在留期限が近づいたら、早めに更新手続きを行いましょう。更新は期限の3ヶ月前から可能です。期限を過ぎると、不法滞在となり、退去強制の対象になります。

資格外活動許可の取得

留学生などで就労が認められていない在留資格の方は、アルバイトをする前に必ず資格外活動許可を取得してください。

雇用主の確認義務

適法に働くためには、雇用主が適切な確認を行うことが必要です。もし雇用主が在留カードの確認をしない場合は、その会社での就労は避けるべきです。

困ったときの相談先

  • 出入国在留管理局の相談窓口
  • 外国人在留総合インフォメーションセンター
  • 入管手続きを専門とする行政書士
  • 弁護士
  • 各自治体の外国人相談窓口

まとめ:適法な雇用が企業と従業員を守る

今回の兵庫県の事件は、外国人雇用における確認義務の重要性を改めて示しています。人手不足という現実的な課題がある中でも、法令遵守を怠ることは、企業経営に深刻なダメージを与えます。

適切な確認手続きを踏むことは、決して煩雑なだけの作業ではありません。それは:

  • 企業の信頼性とブランド価値を守る
  • 刑事責任や行政処分のリスクを回避する
  • 外国人従業員が安心して働ける環境を作る
  • 長期的に安定した人材確保につながる

という、企業にとっても従業員にとってもメリットのある取り組みです。

「知らなかった」「忙しかった」では済まされないのが、外国人雇用のコンプライアンスです。今一度、自社の外国人雇用管理体制を見直し、必要に応じて専門家のサポートを受けることをお勧めします。

適法な雇用を通じて、日本で働く外国人の皆様が能力を発揮し、企業が持続的に成長できる環境を作っていきましょう。

参照記事
神戸新聞NEXT「不法就労助長疑い、土木工事会社の社長と父を逮捕 在留期間過ぎたベトナム国籍の男性ら4人を働かせる」
https://news.yahoo.co.jp/articles/b1b72a4406627c7f181a7e2ecd491018c816ae46