1. はじめに:外国人雇用の現場で今、何が起きているのか
外国人労働者を採用する企業が年々増え、コンビニ、介護、製造業など幅広い業種で外国籍人材が活躍しています。
しかし、入管法の知識や在留資格の確認体制が追いついていない企業も多く、善意の採用が“違法雇用”と判断されるリスクが現実のものになりつつあります。
今回の東京高裁の判決は、その危うさを浮き彫りにしました。
2. 2025年7月の東京高裁判決の概要
2025年7月、東京高裁は「過失がなくても不法就労助長とされる退去強制は妥当」との判決を下しました。
対象となったのは、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で働いていた外国人女性。彼女は派遣会社で面接業務を行っており、就労資格のないベトナム人を採用したことが問題視されました。
結果的に女性は不起訴処分でしたが、入管は「不法就労助長」として退去強制を決定し、高裁はこれを追認しました。
3. 行政処分と刑事罰の違いとは
この判決で重要なのは、「刑事罰には過失が必要でも、行政処分である退去強制には不要」と判断された点です。
つまり、「法律違反をしようと思っていなかった」あるいは「知らなかった」では、行政的な処分は免れないということ。
企業や人事担当者にとっては、法的責任の“幅”が思っている以上に広いことを再認識する必要があります。
4. なぜこの判決は企業にとって重要なのか
外国人雇用に関わる企業や担当者は、「在留資格を確認していればOK」と思いがちですが、それでは不十分。
採用の過程で本人確認を怠ったり、実態にそぐわない業務に就かせた場合、知らぬ間に不法就労助長の加担者になる可能性があります。
今回のように、採用面接一つでその責任が問われ、当人の人生すら変えてしまう現実は、誰にとっても他人事ではありません。
5. 判決から見える“本人確認”の重要性
この事例では、面接時にコロナ対策でマスクを外させなかったことが、なりすましに気づけなかった原因とされ、「過失」と認定されました。
たとえ状況が特殊でも、「適切な確認を行っていれば防げた」と判断されるのです。
企業には、書類上だけでなく実際の本人確認の手順もルール化し、現場担当者にも徹底することが求められています。
6. 外国人雇用の現場で起こりがちなミスと対策
- 在留カードの期限や内容を確認せずコピーのみ保存
- 雇用契約書と実際の業務内容が異なる
- 本人確認の不足(顔写真との照合をしない)
- 通訳や多言語対応の不足により誤解が生じる
対策としては:
- 入社前に在留資格・在留カードの有効性を専門家が確認
- 業務内容と在留資格の合致を社内で明確化
- 研修で「不法就労助長のリスク」を周知徹底する
7. 入管法の基礎知識:企業として知っておくべきこと
- 「資格外活動許可」がなければ、定められた業務以外の仕事は違法
- 「技能実習」「特定技能」など資格によって働ける内容は異なる
- 不法就労助長罪は、経営者だけでなく、現場担当者も対象になり得る
- 曖昧な契約形態(個人委託、業務請負等)も監査対象になることがある
8. 法的リスクを最小化するための社内体制整備
- 採用フローに在留資格確認ステップを明記
- 面接時の本人確認(顔写真付き身分証の確認)を義務化
- 外国人雇用に関する法的研修を定期的に実施
- 専門家(行政書士や社労士)との契約・顧問化で即時相談体制を構築
9. 専門家に相談するタイミングとは?
「相談すべきかどうかわからない」段階こそ、最もリスクが潜んでいるフェーズです。
特に以下のような時は、迷わず相談してください:
- 新しい在留資格で外国人を初採用する
- 業務内容に変更が生じた
- 在留資格更新が近づいてきた
- すでに行政から通知・警告が届いている
こうした段階で相談することで、大きなトラブルを未然に防ぐことができます。
10. まとめ:外国人雇用は“信頼の設計”がすべて
制度は人に厳しく、例外を許さない面があります。
しかし、だからこそ制度に沿った「信頼の仕組み」を最初から設計することで、
企業も外国人も安心して働ける環境が築けます。
行政書士はその“設計図”を一緒に描く伴走者です。
採用の前、トラブルの前にこそ、専門家の知見を活用してみてください。