はじめに

2026年7月、東京都内で外国人技能実習生の監理団体職員らが入管難民法違反容疑で逮捕されるという事件が発生しました。タイ国籍の方々を本来の在留資格では認められないマッサージ店の従業員として働かせていたというこの事件は、外国人雇用における在留資格管理の重要性を改めて浮き彫りにしています。

報道によれば、容疑者らは2022年から約4年間で4店舗を経営し、合計約3億4300万円もの売上を得ていたとされています。この規模からも、組織的かつ計画的な違法行為であったことが伺えます。

本記事では、この事件を題材に、マッサージ・セラピスト業における在留資格の基本、外国人を雇用する企業が注意すべき点、そして在日外国人の方々が知っておくべき重要な法的知識について、詳しく解説いたします。

マッサージ・セラピスト業に「就労ビザ」は存在しない

在留資格の基本構造

多くの方が誤解されていますが、日本にはマッサージ師やセラピストとして働くための「就労ビザ」は存在しません。

日本の在留資格制度は大きく分けて以下のカテゴリーに分類されます:

1. 就労可能な在留資格(活動制限あり)
技術・人文知識・国際業務、技能、企業内転勤、興行など、特定の専門的業務に従事することを前提とした資格

2. 身分・地位に基づく在留資格(活動制限なし)
日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、永住者、定住者など、日本との身分関係に基づく資格

3. 特定活動
法務大臣が個別に指定する活動

マッサージ・セラピスト業は、上記の就労系在留資格のいずれにも該当しません。

マッサージ・セラピスト業に従事できる在留資格

外国人の方がマッサージやセラピストとして合法的に就労できるのは、以下の身分系在留資格を持っている場合に限られます:

  • 日本人の配偶者等:日本人と婚姻関係にある外国人
  • 永住者の配偶者等:永住者と婚姻関係にある外国人
  • 永住者:永住許可を受けた外国人
  • 定住者:法務大臣が特別な理由を考慮して居住を認める外国人(日系人など)

これらの身分系在留資格は、就労活動に制限がないため、マッサージ店やエステサロン、リラクゼーションサロンなどで働くことが可能です。

なぜマッサージ業の就労ビザがないのか

日本の在留資格制度において「就労ビザ」として認められるのは、原則として高度な専門性や技術を要する業務に限定されています。マッサージ業は、残念ながら現行の入管法においてそのカテゴリーに分類されていないのが実情です。

国家資格である「あん摩マッサージ指圧師」であっても、それ自体が就労ビザの対象となる在留資格を創設する根拠とはなっていません。

資格外活動許可による例外的な就労

資格外活動許可とは

ただし、すべての場合においてマッサージ業への従事が不可能というわけではありません。

「留学」や「家族滞在」の在留資格を持つ方は、資格外活動許可を取得することで、本来の在留目的以外の就労活動を一定範囲で行うことができます。

資格外活動許可には以下の制限があります:

  • 週28時間以内の就労(留学生の場合、長期休暇中は1日8時間以内)
  • 風俗営業等に該当する業務は不可
  • 本来の在留目的(学業や家族の扶養)を妨げない範囲

健全なマッサージ店であれば資格外活動可能

留学生や家族滞在の方が資格外活動許可を取得している場合、健全なマッサージ店であれば週28時間以内で働くことは合法です。

ここでいう「健全なマッサージ店」とは:

  • 性的サービスを一切提供しない
  • 風営法の規制対象とならない
  • 適切なマッサージ技術を提供する正規の営業形態

このような店舗であれば、資格外活動の範囲内での就労は認められます。

風俗営業関連は絶対に不可

ここで極めて重要な注意点があります。

性風俗関連のマッサージは風営法の対象となるため、留学生や家族滞在の方は資格外活動許可を持っていても従事することができません。

風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)では、性的サービスを伴う営業を規制しており、このような業務への従事は:

  • 入管難民法違反となる
  • 在留資格の取消し事由となる
  • 強制退去の対象となる
  • 刑事罰の対象となる

今回の事件でも、容疑者らは当初、性的サービスを提供させた風営法違反容疑で逮捕されており、その後入管難民法違反で再逮捕されています。

今回の事件の問題点

技能実習制度の悪用

今回の事件で特に悪質なのは、逮捕された容疑者の一人が外国人技能実習生の監理団体の監理責任者という立場にありながら、違法行為に関与していた点です。

技能実習制度は、開発途上国への技能移転を目的とした国際協力の制度であり、その監理を担う団体の職員が不法就労を助長していたという事実は、制度の信頼性を大きく損なうものです。

不法就労助長罪

雇用主側の法的責任も重大です。

入管法第73条の2では「不法就労助長罪」が規定されており、以下の行為に対して3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科せられます:

  1. 不法就労活動をさせる行為
  2. 不法就労活動をさせるために人を雇用等する行為
  3. 不法就労活動をさせるために人を紹介する行為

「知らなかった」という弁解は通用しません。在留カードの確認を怠った場合でも処罰の対象となります。

組織的な違法行為

報道によれば、容疑者らは2022年からおよそ4年間で4店舗を経営し、合計3億4300万円を売り上げていたとされています。

この規模と期間から、以下の点が推測されます:

  • 計画的・組織的な違法行為
  • 複数の外国人が関与
  • 長期間にわたる入管法違反の継続
  • 多額の不正な利益の獲得

このような悪質なケースでは、より重い刑事罰が科される可能性が高くなります。

外国人を雇用する企業が注意すべきポイント

在留カードの確認義務

外国人を雇用する際、雇用主には以下の確認義務があります:

1. 在留カードの確認

  • 表面:氏名、生年月日、国籍、在留資格、在留期限
  • 裏面:資格外活動許可の有無と条件

2. 在留カードの真正性確認

  • 出入国在留管理庁のウェブサイトで在留カード番号の有効性を確認可能
  • ICチップの読み取りによる確認も可能

3. 就労可能な業務範囲の確認

  • 在留資格ごとに就労可能な業務は異なる
  • 資格外活動許可の内容と条件を確認

在留資格別の就労可能業務

マッサージ・セラピスト業への従事について、在留資格別に整理すると:

◎ 就労可能

  • 日本人の配偶者等
  • 永住者の配偶者等
  • 永住者
  • 定住者

△ 条件付きで可能

  • 留学(資格外活動許可取得、週28時間以内、健全な店舗のみ)
  • 家族滞在(資格外活動許可取得、週28時間以内、健全な店舗のみ)

× 就労不可

  • 技術・人文知識・国際業務
  • 技能実習
  • 特定技能
  • 短期滞在
  • その他の就労系在留資格

定期的な確認とモニタリング

外国人雇用は、採用時の確認だけでは不十分です:

  • 在留期間の確認:在留期限が切れていないか定期的に確認
  • 在留資格の変更確認:結婚や離婚などで在留資格が変わる場合がある
  • 資格外活動許可の更新確認:在留期間更新時に資格外活動許可も再取得が必要な場合がある

社内研修とコンプライアンス体制

企業として以下の体制整備が重要です:

  1. 外国人雇用に関する社内研修の実施
  2. 人事・労務担当者への専門知識の教育
  3. 在留資格管理のシステム化
  4. 定期的な法令遵守状況の確認
  5. 専門家(行政書士、弁護士など)との連携体制

在日外国人の方が知っておくべきこと

自身の在留資格の確認

在日外国人の皆さまは、必ずご自身の在留カードを確認し、以下を把握してください:

  • 現在の在留資格の種類
  • 在留期限
  • 就労可能な業務範囲
  • 資格外活動許可の有無と条件

違法就労のリスク

在留資格で認められていない仕事に就くことは、以下のリスクがあります:

1. 在留資格の取消し
入管法第22条の4に基づき、虚偽申請や違法就労を行った場合、在留資格が取り消される可能性があります。

2. 強制退去
入管法第24条に基づき、不法就労活動を行った場合、退去強制の対象となります。

3. 再入国の困難
一度退去強制となると、原則として5年間は再入国できません。悪質な場合は10年間の上陸拒否期間が設定されることもあります。

4. 刑事罰
場合によっては刑事訴追の対象となることもあります。

雇用主の言うことを鵜呑みにしない

「大丈夫」「問題ない」と雇用主に言われても、最終的に責任を負うのはご自身です。

以下のような勧誘には特に注意してください:

  • 「在留資格は気にしなくていい」
  • 「他の人もやっている」
  • 「バレなければ大丈夫」
  • 「高給を保証する」

専門家への相談

不安や疑問がある場合は、必ず専門家に相談してください:

  • 行政書士:在留資格申請の専門家
  • 弁護士:法的トラブルが発生した場合
  • 入国管理局:在留資格に関する公的な相談窓口
  • 外国人在留支援センター:各地域の支援団体

相談は早ければ早いほど、選択肢が多くなります。

適正な在留資格への変更

身分系在留資格への変更

もし現在マッサージ・セラピスト業で働きたいが適切な在留資格を持っていない場合、以下の方法が考えられます:

1. 日本人との結婚
日本人と結婚し、「日本人の配偶者等」の在留資格を取得

2. 永住許可申請
一定の要件を満たせば永住許可を申請可能(原則として10年以上の在留実績など)

3. 定住者への変更
特別な事情がある場合、定住者への変更が認められる場合がある

資格外活動許可の申請

留学生や家族滞在の方が健全なマッサージ店でアルバイトをしたい場合:

申請先:地方出入国在留管理局
必要書類:

  • 資格外活動許可申請書
  • 在留カード
  • パスポート
  • 雇用契約書や採用内定通知書(ある場合)

審査期間:約2週間〜1か月
手数料:無料

在留資格変更の注意点

在留資格の変更には、それぞれ要件があります:

  • 身分系在留資格:実体を伴う婚姻関係や家族関係が必要
  • 永住許可:素行善良、独立生計、日本の利益に合すること
  • 資格外活動許可:本来の在留目的を妨げないこと

偽装結婚や虚偽申請は重大な犯罪行為であり、発覚した場合は厳重に処罰されます。

まとめ

今回の事件は、外国人雇用における在留資格管理の重要性を改めて示す事例となりました。

企業の皆さまへ

  • 在留カードの確認は義務です
  • 不法就労助長罪は重い刑事罰の対象です
  • コンプライアンス体制を整備しましょう
  • 不明な点は専門家に相談しましょう

在日外国人の皆さまへ

  • ご自身の在留資格で認められる仕事を確認しましょう
  • 違法就労はあなたの将来を危険にさらします
  • 雇用主の言葉を鵜呑みにせず、自分で確認しましょう
  • 困ったときは専門家に相談しましょう

マッサージ・セラピスト業は、現行法上、特定の身分系在留資格を持つ方、または資格外活動許可を取得した留学生・家族滞在者(健全な店舗で週28時間以内)のみが従事できる業務です。

ただし、性風俗関連は風営法の対象となるため、留学生や家族滞在の方は資格外活動許可があっても絶対に従事できません。

適法な外国人雇用と在留は、企業と外国人双方の責任です。法令を遵守し、安心して働ける環境を整えていくことが、多文化共生社会の実現につながります。

ご不明な点やご相談がございましたら、行政書士などの専門家にお気軽にお問い合わせください。


参考記事
https://news.yahoo.co.jp/articles/9ad43beb91329644d095f12c1c05dc2fb56a3e93