外国人の在留資格の中で最も安定した地位とされる「永住者」。その許否の判断基準となる出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン」が、令和8年(2026年)10月1日に改定されました。
平成18年(2006年)3月31日の策定以来、令和6年(2024年)6月の改訂を経て、今回で3度目の改定です。8月4日の改定案公表から約2か月、パブリックコメントを経て、ついに正式版が確定しました。
今回の改定のキーワードは、①世帯年収(日本人世帯の平均以上)、②年金の受給見込額、③日本語能力B1相当、④生活・就労ガイドブックによる制度理解の確認です。永住許可のハードルが明確に、そして厳格に引き上げられました。
この記事では、公式HPの読者の皆様(永住許可を検討されている外国籍の方、そのご家族、企業の人事・総務ご担当者様)に向けて、改定内容をできるだけわかりやすく、かつ正確に解説します。
1. 今回の改定、まず押さえるべき3つのポイント
ポイント1:新しい基準の適用は令和9年4月1日以降の申請から。ただし「収入」と「公共の負担」は実質即日適用
ガイドライン第6「適用時期」によれば、改定内容は令和9年(2027年)4月1日以降の申請から適用されます。
しかし、ここに重要な例外があります。申請者の世帯年収(第2の4(2))と公共の負担(第2の5(7))に関する項目は、改定日の6か月前=令和8年4月1日以降の申請分に適用され、さらに、10月1日改定の時点で申請中の案件にも適用されます。
つまり、「10月1日より前に申請したから古い基準で審査される」ということは、この2つの項目については原則としてありません。すでに申請中の方も、新しい収入基準・年金基準を意識した準備が必要です。
ポイント2:「義務の遵守・公租公課の支払」が法律上の要件に
令和6年入管法等改正法により、令和9年4月1日の施行から、「この法律に規定する義務の遵守、公租公課の支払等」という文言が入管難民法第22条第2項に追加されます。ただしガイドラインは「従前のガイドライン上の記載を法律上の要件として明確化したものであり、同日以前の審査でも考慮されていた」と明記しています。税金・社会保険料の未納が即アウトであることは、改定前後で変わりません。
ポイント3:「我が国への貢献」ガイドラインは廃止
今回の改定により、別個に存在していた「我が国への貢献」に関するガイドラインは廃止され、改定後のガイドライン第4(我が国に貢献した者に対する特例)に一本化されました。表彰歴・公的役職歴等による特例の扱いは引き続き規定されています。
2. 永住許可の3要件の基本
入管難民法第22条第2項は、永住許可の要件として次の3つを定めています。
- 素行善良要件…法律を遵守し、日常生活においても住民として社会的に非難されることのない生活を営んでいること
- 独立生計要件…独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
- 国益要件…その者の永住が日本国の利益に合すること
日本人・永住者・特別永住者の配偶者や子、難民認定を受けた方などには、このうち素行善良要件・独立生計要件の適用が免除される特例があります。
そして今回の改定の核心は、「独立生計要件」に明確な収入・年金の基準が盛り込まれ、「国益要件」に日本語能力B1相当や制度理解の確認、学齢期の子の就学などが新たに考慮要素として列記されたことです。以下、順に見ていきます。
3. 【最重要】収入要件:世帯年収が「日本人世帯の平均以上」であること
3-1. 考え方:世帯単位で審査
改定後のガイドラインは、独立生計要件を「公共の負担となるおそれがなく、将来においても生計を維持して安定した生活を営むことができると見込まれること」と定義し、現在及び将来において自活可能であること、日本人と同等水準以上の経済条件が求められることを明記しました。
原則として審査は同一生計世帯単位で行われます。
3-2. 世帯年収の基準
申請時点で、申請者の属する世帯の年収が、世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準に「継続して」達しているかが考慮要素となります。
ここでの「世帯」とは「住居及び家計を共にしている人の集まり」です。世帯年収は申請者本人と、同一生計世帯を構成する者の年収の合算額になります(単身世帯なら申請者の年収そのもの)。
実務上の注意点として、次のルールが示されています。
- 家族滞在の在留資格で在留する方の収入は、世帯年収に合算できません。資格外活動許可による限定的な収入は算入対象外です。
- 同一生計世帯の中でも、成人している者など父母の扶養から外れている者については、父母の収入を算入せず、その者自身の年収単独で基準に達しているかが見られます。
- 申請者が扶養する親族(海外在住の親族を含む)は、同居していなくても世帯人数に加算されます。扶養親族が多いほど、必要とされる年収水準が上がる仕組みです。
- 世帯人数が5人以上の場合は、世帯人数に応じた年収水準に生活費等の増加額分を加算して判断します。
3-3. 「継続して」が意味するもの
「継続して達しているか」という文言から、申請時点の一時的な年収だけでなく、直近の複数年分の世帯年収の推移が問われることになります。賞与の落ち込み、減給、転職・失業による年収の変動が审查に影響する可能性があります。すでに申請中の方も含め、直近数年間の源泉徴収票・課税証明書を確認し、基準との距離を一度把握しておくことをお勧めします。
なお、世帯人数に応じた「日本人世帯の平均収入」の具体的な金額は、ガイドライン上は定められておらず、統計データに基づいて個別に判断されるものです。「世帯人数◯人なら年収◯万円」といった確定したラインを鵜呑みにしないようご注意ください。
4. 【最重要】年金要件:受給見込額と「厚生年金30年水準」
今回新設されたのが年金に関する考慮要素です。これは多くの方にとって不測のハードルになると考えられます。
4-1. 基準:受給年金水準以上か
申請時点の年齢、これまでの年金加入状況(従前の働き方、加入期間、その期間の平均年収等)及び申請時点の年収から推計される将来受給可能な年金の見込額(受給見込額)が、「日本人世帯の平均収入を上回る年収水準で30年間働き、その間厚生年金に加入していた場合の年金見込額(受給年金水準)」に達しているかが考慮要素となります。
4-2. 不足を埋める「補填資産」
受給見込額が基準に達しない場合でも、申請時点で受給年金水準に不足する生活資金を補填可能な金融資産(補填資産)を有すると認められれば、基準を満たすものとして評価されます。
補填資産の額の基準は申請時の年齢に応じて設定され、若い申請者ほど基準は低く、年金受給開始年齢に近いほど高くなります。つまり「金融資産で代替する」道はありますが、年齢によって必要水準が変わる点に注意が必要です。
4-3. 夫婦・世帯での判断
年金要件も原則として世帯単位です。配偶者がいる場合、申請者と配偶者の受給見込額を合算し、配偶者が申請者と同期間、第3号被保険者(年金未加入期間ではなく国民年金の第3号被保険者)として在籍していた場合に受給可能な見込額を加算した額との比較で判断されます。補填資産も併せて加算されます。
4-4. 実務上の意味
会社員の方でも、日本での年金加入期間が短い方、自営業で国民年金のみの方、無年金・薄年金に近い方、保険料の未納・免除期間が長い方は、受給見込額が基準に届くかが実質的な関門になります。年金ねっと等での加入記録の確認、将来見込額の試算は、永住許可を考えているすべての方にとって最初のチェック項目といえます。
5. 国益要件の新考慮要素:日本語B1・制度理解・子の就学
5-1. 日本語能力:「B1相当以上」
申請時点で、「日本語教育の参照枠」(令和3年文化審議会国語分科会報告)の熟達度のうちB1相当レベル以上の日本語能力を有しているかが考慮要素となります。B1は「自立した言語使用者」の水準です。
ただし、以下のような場合には、本人のB1要件は考慮要素とされません。
- 高度人材外国人及びその家族(高度人材のポイント70点以上/80点以上、特別高度人材の該当者等)
- 学校教育法に規定する初等教育又は中等教育を累計6年以上受けた方
- 永住者の子で、その子を養育する親がB1相当以上の日本語能力を有し、かつ子が本邦で出生した場合
つまり、一般の就労系在留資格の方やその配偶者については、B1相当(例:日本語能力試験であればおおむねN2~N1水準に対応するとされるレベル)以上の実証が事実上求められる方向です。
5-2. 制度・ルールへの理解:「生活・就労ガイドブック」による確認
出入国在留管理庁長官が指定する方法により、「生活・就労ガイドブック」に記載されている事項を中心に、日本の制度・ルール等を理解しているかの確認が行われ、その理解が一定水準以上に達しているかが考慮要素となります。理解が乏しい場合や、学習意欲に欠ける者と認められる場合には消極評価です。
5-3. 学齢期の子の就学
学齢期(義務教育期間)の子を養育する親の場合、子が小学校又は中学校に通学していることが求められ、これも考慮要素です。申請者本人が学齢期の当事者である場合も同様です。不登校のままの永住申請は不利に働き得るということです。
5-4. 国益要件の質的転換
ガイドラインは、国益要件について「単に国益に反しないという消極的なものにとどまらず、積極的かつ具体的に当該外国人の永住が日本国に利益をもたらす必要がある」と明記しました。令和8年1月23日に決定された「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」への貢献・寄与も考慮要素とされています。日本語学習・制度学習への取り組みは、この国益要件にも直結します。
6. 在留期間・海外滞在の見直し
6-1. 原則10年在留+「就労資格等で5年」+「最長の在留期間」
国益要件の考慮要素として、次の3点が確認されます。
- 申請時点で原則引き続き10年以上本邦に在留していること
- このうち就労資格又は居住資格をもって引き続き5年以上在留していること
- 申請時点で、現に有している在留資格について、最長の在留期間(多くの在留資格では「3年」)をもって在留していること
6-2. 在留期間「3年」の経過措置
現在、5年更新の在留資格(「定住者」等)をお持ちの方への重要な経過措置があります。
- 令和9年3月31日までに申請した場合:在留期間「3年」を有する者であっても、「最長の在留期間をもって在留している」ものとして扱われます。
- 令和9年4月1日以降に申請する場合:令和9年3月31日時点で在留期間「3年」を有しており、その申請が4月1日以降の初回の永住申請で、かつ4月1日から当該3年の在留期限までの間に処分を受ける場合に限り、同様に扱われます。
3年定住者などの方が「まだ更新の必要もないから」と猶予しすぎると、条件を満たせなくなる恐れがあります。逆に、今の在留期限までに申請・処理を終えるスケジューリングが極めて重要になります。
6-3. 海外滞在の上限:半年(1回)・2年6か月(通算)
申請時点から過去10年以内に、合理的な理由なく、1回の出国で6か月以上不在とした期間がある場合、または通算して2年6か月以上不在とした場合は、原則として消極評価とされました。海外赴任・介護・留学などで長期離日をした方、する予定の方は、その理由の記録と証明を残しておくことが大切です。
7. 「特定活動」で在留されている方へ:10年算定と就労資格該当性
在留資格「特定活動」は活動内容が個々に指定されるため、今回、その取扱いが初めて明文化されました。
「10年」に算定されない活動の例
- 継続就職活動、就職内定者
- 本邦の大学等を卒業して起業活動を行う留学生
- 難民認定等手続中、本国の情勢不安を理由とする在留
「就労資格」に該当しない活動の例
- ワーキングホリデー、インターンシップ(告示5号・5号の2、9号)
- 本邦の高等学校卒業後に就職した者(告示外特定活動)
一方、告示6号(アマチュアスポーツ選手)、8号(国際仲裁代理)、36号(特定研究等活動)、37号(特定情報処理活動)、46号(本邦大学等卒業者)、EPA看護師・介護福祉士(候補者期間を除く)は就労資格に該当します。
特定活動で在留している方にとって、どの告示・指定かで永住への道筋が大きく異なります。ご自身の指定番号を確認した上で、専門家への相談をお勧めします。
8. 不許可につながる「消極評価」のポイントまとめ
- 税金・社会保険料の滞納(過去の滞納処分歴を含む)
- 在留カード常時携帯義務違反などの義務違反(過去分も含む)
- 拘禁刑・罰金刑、少年法の保護処分歴
- 上陸拒否事由への該当、現行在留資格の上陸許可基準等への不適合
- 世帯年収が日本人世帯平均水準に継続して達しないこと
- 年金受給見込額の不足(補填資産でも不足する場合)
- 日本語B1相当に達しないこと(免除者を除く)
- 生活・就労ガイドブック等の制度理解の不足
- 学齢期の子の非就学
- 過去10年内の長期海外滞在(1回6か月以上/通算2年6か月以上、合理的な理由がない場合)
- 特定活動で算定対象外の活動のみで在留期間を積み上げている場合
9. 申請を検討されている方へ(実務家からのアドバイス)
今回の改定は、「永住=自動的な権利」ではなく、「日本が積極的な利益を認める場合に付与される裁量的な許可」であるという立場をより鮮明にしたものです。その一方で、基準が明文化されたことは、事前に自分の可否を予見しやすくなったという側面もあります。
今すぐできる3つのステップ:
- 年金加入記録の確認…年金ねっとで加入実績を確認し、受給見込額を試算する
- 世帯年収の棚卸し…直近3~5年分の収入実績と、扶養親族(海外含む)の人数を整理する
- 在留期間と期限の確認…現在の在留期間の種類と期限、申請タイミング(特に令和9年3月31日の経過措置期限)を確認する
私どもニセコビザ申請サポートセンターは、ビザ・在留資格を専門とする申請取次行政書士として、改定後の基準を踏まえた永住許可申請のご相談を承ります。「自分は該当するのか」「何を証明すればよいのか」「いつ申請すべきか」― お気軽にご相談ください。
※本記事は令和8年10月1日改定の「永住許可に関するガイドライン」に基づく一般的な解説であり、個別案件の許否を保証するものではありません。個別のご相談は、ご本人様の状況を確認した上で承ります。
10. よくあるご質問(Q&A)
Q1. 新基準はいつ申請すれば避けられますか? 基本的に避けられません。世帯年収・公共の負担の基準は、令和8年4月1日以降の申請と10月1日時点の申請中案件に適用されます。それ以外の項目(日本語B1、年金、制度理解など)は令和9年4月1日以降の申請から適用です。つまり「日本語や年金の新基準を避ける」目的の前倒し申請は、令和9年3月31日までに許可の処分が下りるスケジュールが組める場合に限り意味があります。
Q2. 日本語能力試験の証明書は必須ですか? ガイドライン上は「B1相当レベル以上を有しているか」が考慮要素とされており、証明の方法は今後の運用が示すところです。ただし、証明可能な形(試験結果等)を用意しておくことが最も確実です。免除に該当する可能性(高度人材・その家族、初等中等教育6年以上、永住者の子など)がある方も、一度ご相談ください。
Q3. 世帯年収が基準に届かない場合は諦めるしかないのですか? 諦める必要はありません。家族滞在の配偶者を就労可能な在留資格に変更した上で収入を合算する、扶養親族の構成を見直す、など状況によって打ち手があります。まず現状を整理することが第一歩です。
Q4. 年金を受給している年齢で申請する場合はどうなりますか? その場合の「受給見込額」は実際に受給される年金額に近いものになります。年金加入期間の記録(年金手帳・基礎年金番号)をお持ちの上でご相談ください。
11. まとめ
令和8年10月1日の改定は、永住許可審査の「基準の明文化」と「厳格化」を同時に進めるものでした。
- 新基準の適用は原則令和9年4月1日以降の申請から。ただし世帯年収・公共の負担は実質即日適用
- 世帯年収は日本人世帯の平均以上、年金は受給見込額が「平均以上の年収で30年間厚生年金」の水準以上(不足は補填資産で代替可)
- 日本語B1相当、生活・就労ガイドブックによる制度理解、学齢期の子の就学が新たな考慮要素に
- 在留期間「3年」への経過措置は令和9年3月31日までの申請が対象
基準が明確になった分、「自分は今、どの位置にいるのか」「何を準備すれば良いのか」を客観的に判断できるようになったのも事実です。永住をお考えの方は、お早めに一度、専門家までご相談ください。
