■ はじめに

2026年10月から、外国人の在留資格に関する手数料が大幅に改定される見込みです。出入国在留管理庁が7月3日に公表したガイドライン案により、その具体的な内容が明らかになりました。

この改定は、在日外国人の皆様だけでなく、外国人材を雇用する企業にとっても大きな影響を及ぼす可能性があります。本記事では、行政書士の視点から、今回の改定内容、減額制度の実態、そして企業が取るべき対応について詳しく解説します。

■ 1. 在留手数料改定の全容

現行制度との比較

現在、在留資格の変更および期間更新の手数料は、窓口で一律6,000円です。しかし、今回の改定案では、在留期間に応じて7つの区分が設けられ、大幅な値上げが実施されます。

【具体的な手数料】

  • 3ヶ月以下:10,000円(現行6,000円)
  • 1年:33,000円(現行6,000円)
  • 5年以上:75,000円(現行6,000円)
  • 永住許可:200,000円(現行10,000円)

最も一般的な1年更新の場合、従来の5.5倍、5年更新では12.5倍、永住許可に至っては20倍という大幅な値上げとなります。

改定の背景と法的根拠

この手数料改定は、2024年5月に成立した改正入管法に基づくものです。法改正の背景には、在留管理業務の複雑化・高度化、審査体制の強化、そして受益者負担の原則の徹底といった政府の方針があります。

しかし、国会審議では野党を中心に「外国人材の受け入れを阻害するのではないか」「人道的配慮が不足しているのではないか」といった懸念が示され、活発な議論が交わされました。

■ 2. 減額制度の詳細と実態

減額制度の要件

改正法では「経済的に困難、その他特別の理由がある」場合には手数料を減免すると定められています。一見すると、困窮している外国人を救済する制度のように見えますが、実際のガイドライン案では非常に厳格な要件が設定されています。

【減額の2要件】

  1. 生活保護法が定める「要保護者」と同程度で生活に困窮していること
  2. 人道上の配慮が必要であること

この2つの要件を「いずれも」満たす必要があるため、実質的に適用範囲は極めて限定的になります。

難民認定申請者への影響

特に注目すべきは、難民認定申請者に対する取り扱いです。ガイドライン案によれば、減額対象となるのは以下の条件を満たす方に限定されます:

  • 保護費を受けた上で「特定活動」の在留資格に変更した人
  • 難民条約上の迫害に明らかに該当する人
  • 正当な理由なく難民認定を再申請していないと判断された人

ここで重要なのは「保護費」の受給状況です。保護費は生活保護とは異なり、原則として1回目の難民認定申請をした困窮者に国が支給する支援金です。

【統計データ】

  • 2025年の難民認定申請者:11,298人
  • 同年度の保護費受給者:518人
  • 受給率:約4.6%(1割未満)

つまり、難民認定申請者の9割超が保護費の要件を満たしておらず、減額対象から外れることになります。

国会の付帯決議との関係

このような厳格な要件設定に対して、国会審議では懸念の声が相次ぎました。その結果、改正法には付帯決議が付され、「要件が狭くならないよう配慮すること」が求められています。

現在実施中のパブリックコメント(意見公募)の結果次第では、最終的なガイドラインに修正が加えられる可能性もあります。

■ 3. 免除制度について

減額とは別に、完全な「免除」制度も設けられています。ただし、こちらも対象は非常に限定的で、「外交」や「公用」の在留資格への変更などが該当します。

一般的な就労ビザや家族滞在、留学などの在留資格では、免除の対象にはなりません。

■ 4. 外国人材を雇用する企業への影響

コスト面での影響

外国人従業員を雇用している企業にとって、この手数料改定は無視できない影響をもたらします。

【ケーススタディ】
例えば、技術・人文知識・国際業務ビザで働く従業員10名を雇用している企業の場合:

  • 従来:6,000円 × 10名 = 60,000円/年
  • 改定後(1年更新):33,000円 × 10名 = 330,000円/年
  • 差額:270,000円の負担増

5年更新の場合はさらに負担が大きくなり、75,000円 × 10名 = 750,000円となります。

人材確保と定着への影響

手数料の大幅な値上げは、外国人材の日本での就労意欲にも影響を及ぼす可能性があります。特に、以下のような懸念が考えられます:

  1. 新規採用の困難化:日本での就労コストが高まることで、他国との競争力が低下
  2. 既存社員のモチベーション低下:手続き負担の増加による心理的ストレス
  3. 家族帯同の障壁:家族全員分の手数料負担が家計を圧迫
  4. 永住希望者の減少:永住許可20万円は大きな心理的・経済的ハードル

企業が検討すべき対応策

このような状況下で、企業が検討すべき対応策には以下のようなものがあります:

1. 福利厚生としての手数料サポート
在留手続き手数料の一部または全額を会社が負担する制度の導入を検討する。優秀な外国人材の確保・定着のための投資と位置づける。

2. 在留期間の最適化
可能な限り長期の在留期間(3年または5年)を取得できるよう、適切な書類準備と申請サポートを行う。長期的にはコスト削減につながる。

3. 計画的な永住許可取得支援
要件を満たす従業員に対して、永住許可取得のサポートを行う。永住者は在留期間の更新が不要になるため、長期的にはコストと手間が削減される。

4. 専門家との連携強化
行政書士などの専門家と連携し、最新の法改正情報を把握するとともに、適切な申請戦略を立てる。

5. 従業員への丁寧な説明
制度変更について従業員に正確な情報を提供し、不安を軽減する。必要に応じて説明会を開催する。

■ 5. 在日外国人の方へのアドバイス

今すぐできる準備

10月の施行まで数ヶ月ありますが、今から準備できることがあります:

1. 更新時期の確認
自分の在留期限を確認し、10月以降に更新時期が来る場合は、新しい手数料での申請となることを想定して準備を始めましょう。

2. 経済状況の整理
減額制度の利用を検討する場合、自分が要件を満たすかどうか、必要な証明書類は何かを専門家に相談しましょう。

3. 在留期間の選択肢検討
次回の更新時に、1年、3年、5年のどの在留期間を選択するか、コストと安定性のバランスを考慮して計画しましょう。

4. 永住許可の検討
永住許可の要件を満たしている、または近い将来満たす見込みがある場合は、手数料改定前の申請も選択肢の一つです。ただし、十分な準備が必要です。

専門家への相談の重要性

在留資格に関する手続きは複雑で、一つの判断ミスが大きな影響をもたらすこともあります。特に今回のような大きな制度変更の時期には、以下の点で専門家のサポートが有効です:

  • 最新の法改正情報の正確な把握
  • 個別状況に応じた最適な申請戦略の立案
  • 減額・免除制度の適用可能性の診断
  • 必要書類の適切な準備と申請代行
  • 不許可リスクの最小化

■ 6. パブリックコメントと今後の動向

パブリックコメント制度とは

現在、入管庁はこのガイドライン案についてパブリックコメント(意見公募)を実施しています。パブリックコメントとは、行政機関が政策を決定する前に、広く国民から意見を募集する制度です。

寄せられた意見は検討され、場合によっては最終的なガイドラインに反映されることもあります。

注目すべきポイント

今後の動向として、以下の点に注目が必要です:

  1. パブリックコメントの内容と数:多数の懸念が寄せられた場合、要件の緩和など修正の可能性
  2. 付帯決議の履行:国会が求めた「要件が狭くならないよう配慮」がどう反映されるか
  3. 難民支援団体の動き:人権団体やNGOからの指摘と政府の対応
  4. 国際的な評価:日本の難民受け入れ姿勢に対する国際社会の反応

10月施行に向けたスケジュール

  • 7月:ガイドライン案公表、パブリックコメント募集
  • 8月〜9月:意見の集約・検討、最終ガイドラインの策定
  • 10月:新制度施行

施行まで残された時間は限られています。企業も個人も、早めの情報収集と準備が重要です。

■ 7. 国際比較の視点

他国の在留手数料

参考までに、主要国の在留手数料を見てみましょう:

  • アメリカ:I-129(就労ビザ変更)約460ドル、グリーンカード申請約1,000ドル以上
  • カナダ:就労許可約155カナダドル、永住権申請約500カナダドル以上
  • オーストラリア:就労ビザ約310豪ドル〜、永住ビザ約4,000豪ドル以上
  • イギリス:就労ビザ約610ポンド〜、永住権約2,400ポンド

日本の改定後の手数料は、国際的に見て特別に高額というわけではありませんが、従来が低額だっただけに、値上げ幅の大きさが衝撃を与えています。

■ 8. まとめ

重要ポイントの再確認

  • 10月から在留手数料が大幅に値上げ(1年更新で5.5倍、永住許可で20倍)
  • 減額制度は設けられているが、要件が厳格で適用範囲は限定的
  • 難民認定申請者の9割超が減額対象外となる見込み
  • 外国人材を雇用する企業には、コストと人材戦略の両面で影響
  • パブリックコメントの結果次第で、最終ガイドラインに変更の可能性

これから必要なアクション

在日外国人の皆様へ

  • 自分の在留期限と更新時期を確認
  • 経済状況を整理し、減額制度の利用可能性を検討
  • 専門家に相談し、最適な申請戦略を立てる
  • 最新情報を継続的にチェック

企業の人事・経営者の皆様へ

  • 外国人従業員の在留状況と更新時期を把握
  • 手数料負担に関する社内方針を検討・策定
  • 福利厚生としてのサポート制度の検討
  • 採用・定着戦略の見直し
  • 専門家との連携体制の構築

最後に

今回の在留手数料改定は、在日外国人コミュニティと外国人材を受け入れる企業にとって、大きな転換点となる可能性があります。

一方で、制度変更は必ずしもネガティブな側面だけではありません。適切に準備し、正しい情報に基づいて行動することで、リスクを最小化し、機会に変えることも可能です。

在留資格に関する手続きは、皆様の日本での生活と仕事の基盤です。不安なことや分からないことがあれば、一人で悩まず、専門家に相談することをお勧めします。

私たち行政書士は、在留資格申請の専門家として、皆様が安心して日本で生活し、働き続けられるようサポートする使命を持っています。どんな小さなことでも構いませんので、お気軽にご相談ください。

この記事が、皆様の理解と準備の一助となれば幸いです。

参照記事:https://news.yahoo.co.jp/articles/1d05d423a6ec19c4357c8bf46b197d354d246d53

【注】本記事は2024年7月3日時点の情報に基づいています。最終的なガイドラインは変更される可能性がありますので、最新情報は出入国在留管理庁の公式発表をご確認ください。