■ はじめに:山梨県で相次ぐ外国人による高速道路誤進入
2022年から2025年にかけて、山梨県では訪日外国人が自転車やその他の手段で高速道路に誤って進入する事案が相次いでいます。読売新聞の報道によれば、2022年から2025年の間に県内で確認された高速道路への誤進入は167件にのぼり、そのうち約60%にあたる94件が外国人によるものでした。
特に観光地として人気の富士北麓地域、具体的には東富士五湖道路周辺での発生が顕著で、2025年に起きた誤進入33件のうち、実に80%以上の27件が外国人によるもので、その半数以上が自転車による誤進入だったとのことです。
この問題は単なる観光客の一時的なトラブルではありません。在日外国人の増加、外国人労働者の受け入れ拡大が進む日本において、企業が外国人スタッフを雇用する際に考慮すべき重要な安全管理課題を浮き彫りにしています。
本記事では、ビザ申請・在留資格申請の専門家の視点から、この問題が示唆する企業の責任と、外国人スタッフの安全を守るために必要な対策について詳しく解説します。
■ 事案の詳細:「知らなかった」では済まされない現実
2026年7月26日、山中湖畔では多くの訪日客が自転車でサイクリングを楽しんでいました。湖から北西約2キロの場所には東富士五湖道路の山中湖インターチェンジがあります。
この日、家族で自転車をレンタルしてサイクリングを楽しんでいたカナダ人男性(47歳)は、取材に対して「自転車で高速道路に入れないとは知らなかった」と驚いた表情で語りました。
この男性は、ルールを知らないまま2時間近くサイクリングを楽しんでいたといいます。「(自転車を)借りるときに色々説明はしてくれていたが、しっかりと聞いていなかった。これからは気をつけて乗りたい」と反省の言葉を述べています。
さらに深刻な事例として、2024年7月22日午後には、東富士五湖道路の山中湖インターチェンジから外国人4人が自転車に乗って誤って進入する事案が発生しました。
目撃者からの通報で駆けつけた県警が4人を確保したため大事には至りませんでしたが、4人はスマートフォンの地図アプリを使ってサイクリングをしていたところ、高速道路とわからずに進入してしまったとのことです。
高速道路への誤進入は、本人だけでなく高速道路を走行する他の車両にとっても極めて危険な行為です。重大事故につながる可能性が高く、一歩間違えれば命に関わる事態となります。
■ なぜ外国人による誤進入が多いのか?文化的・構造的要因の分析
1. 交通ルールの国際的相違
日本では自転車が高速道路に進入できないことは常識ですが、海外では事情が異なります。
例えば、アメリカやカナダの一部地域では、自転車専用レーンが高速道路(フリーウェイ)に併設されているケースがあります。また、ヨーロッパの一部の国では、自転車が幹線道路を走行することが認められている場合もあります。
このような文化的・法的背景の違いが、「自転車で高速道路に入れる」という誤った認識につながっているのです。
2. 言語の壁と情報伝達の課題
自転車レンタル店では説明をしているものの、「しっかりと聞いていなかった」というケースが多く見られます。
これは単なる注意不足だけでなく、言語の問題も大きく影響しています。日本語が不十分な外国人にとって、口頭での説明だけでは十分に理解できない可能性があります。
3. デジタルマップの限界
スマートフォンの地図アプリは非常に便利ですが、高速道路と一般道の区別が視覚的に分かりにくい場合があります。
特に自転車ルート検索では、システムが誤って高速道路を含むルートを提案することもあり、利用者が気づかずに進入してしまうリスクがあります。
4. オンライン予約・非対面サービスの普及
近年、オンラインサイトで自転車を予約し、非対面でレンタルする訪日客が増加しています。
このようなケースでは、スタッフから直接注意喚起を受ける機会がなく、危険な状況を未然に防ぐことが難しくなっています。
■ 企業が直面する課題:外国人雇用における安全管理責任
この問題は観光客だけの問題ではありません。外国人労働者を雇用する企業にとっても、重要な示唆を含んでいます。
1. 労働安全衛生法上の責任
企業は労働安全衛生法により、従業員の安全を確保する義務を負っています。これは外国人スタッフも例外ではありません。
通勤時の交通事故も、場合によっては労災認定される可能性があり、企業の責任が問われることがあります。
2. 社会的責任とレピュテーションリスク
外国人スタッフが交通事故を起こした場合、企業の社会的責任が問われる可能性があります。
「外国人スタッフへの安全教育を怠った」と見なされれば、企業のレピュテーション(評判)に悪影響を及ぼすリスクがあります。
3. 人材確保・定着への影響
外国人スタッフが安心して働ける環境を整備することは、人材確保と定着率向上に直結します。
安全管理がおろそかな企業は、優秀な外国人人材から選ばれなくなる時代が来ています。
■ 企業が取り組むべき具体的対策:外国人スタッフの安全を守るために
1. 入社時オリエンテーションの充実
ビザ申請や在留資格の手続きと同様に、日本の交通ルールについての丁寧な説明を行うことが重要です。
特に以下の点を重点的に教育すべきです:
- 自転車は高速道路に進入できないこと
- 自転車は原則として車道の左側を走行すること
- 夜間はライトを点灯する義務があること
- 傘をさしながらの運転、スマートフォンを操作しながらの運転は禁止されていること
- 飲酒運転は自転車でも違法であること
2. 多言語対応の視覚的教材の提供
口頭説明だけでなく、英語、中国語、ベトナム語、ネパール語など、スタッフの母国語に対応した視覚的な教材を用意することが効果的です。
イラストや写真を多用し、言語能力に関わらず理解できる資料を作成しましょう。
3. 実地での交通ルール確認
特に自転車通勤をするスタッフに対しては、実際に通勤ルートを一緒に確認し、危険な場所や注意すべきポイントを具体的に指導することが有効です。
4. 定期的なリマインドとアップデート
入社時だけでなく、定期的に交通安全についてのリマインドを行うことが重要です。
季節ごとの注意点(雨天時の走行、冬季の凍結路面など)についても情報提供しましょう。
5. 緊急連絡先の明確化と共有
万が一事故が発生した場合の連絡先、対応手順を明確にし、外国人スタッフにも分かりやすく共有しておくことが必要です。
6. 地域の交通事情に応じた対応
富士五湖地域のような観光地や、高速道路のインターチェンジが近い地域で事業を展開している企業は、特に注意が必要です。
地域特有のリスクを把握し、それに応じた教育プログラムを実施しましょう。
■ 山梨県警と関係機関の取り組み
山梨県警高速隊では、この問題に対して様々な対策を講じています。
1. 多言語ポスターの配布
自転車レンタル店に対して、英語や中国語などで高速道路へ入れないことが明記された注意書きのポスターを配布しています。
2. 対策会議の開催
2024年7月23日には富士吉田市で関係機関を招いた対策会議が開催されました。
ネクスコ中日本や富士河口湖町観光連盟の担当者など約20人が参加し、以下のような対策案が出されました:
- 各観光連盟のSNSやホームページでの呼びかけ
- 高速道路への立ち入り禁止を記した路面表示の拡充
3. 継続的な協議
県警では今後も対策について協議を進めていくことにしており、「大きな事故につながる前に警察と各機関が連携して(自転車などで)高速道路に立ち入ることが危険な行為であることを周知していきたい」としています。
■ ビザ・在留資格専門家の視点:法的サポートを超えた包括的支援の必要性
私たちビザ申請・在留資格申請の専門家は、日々多くの外国人の方々とそのご家族、そして外国人を雇用する企業をサポートしています。
その経験から言えることは、法的手続きのサポートだけでは不十分だということです。
1. 生活全般のサポートの重要性
ビザや在留資格を取得した後の生活全般をサポートすることが、真の意味での「受け入れ」であり、「共生」です。
交通ルール、ゴミの分別、地域の習慣など、日本で安全・快適に生活するための基礎知識の提供も、私たちの重要な役割だと考えています。
2. 企業向けコンサルティングの必要性
外国人を雇用する企業に対して、法令遵守(コンプライアンス)の観点だけでなく、外国人スタッフが安心して働ける環境整備についてもアドバイスを行っています。
これには、交通安全教育プログラムの策定支援も含まれます。
3. 継続的なフォローアップ
在留資格の更新時だけでなく、定期的なコミュニケーションを通じて、困りごとや不安を早期に把握し、適切なサポートを提供することが大切です。
■ グローバル化時代の企業の社会的責任
外国人人材の活用は、今や多くの企業にとって必須の経営戦略となっています。
しかし、単に「労働力」として受け入れるだけでなく、一人ひとりの安全と幸福を守る責任が企業にはあります。
1. ダイバーシティ&インクルージョンの実践
真のダイバーシティ&インクルージョンとは、異なる背景を持つ人々が安全に、快適に働ける環境を整備することです。
「当たり前」を共有するプロセスこそが、真の多文化共生につながります。
2. 投資としての安全管理
外国人スタッフの安全管理は、コストではなく投資です。
これにより得られるリターンは:
- 従業員エンゲージメントの向上
- 離職率の低下
- 企業ブランド価値の向上
- 地域社会との良好な関係構築
3. 持続可能な事業運営
外国人スタッフを含むすべての従業員が安心して働ける環境は、持続可能な事業運営の基盤です。
■ まとめ:小さな配慮が大きな事故を防ぐ
山梨県で相次ぐ訪日外国人の高速道路誤進入は、私たちに重要な教訓を与えています。
「自転車で高速道路に入れないとは知らなかった」という一言は、文化的背景の違いがもたらす認識のギャップを如実に示しています。
企業の人事担当者、経営者の皆さま、外国人スタッフへの安全教育は十分でしょうか?
ビザ申請や在留資格の手続きと同様に、日本での安全な生活のための基礎知識提供も、企業の重要な責任です。
「説明したつもり」ではなく、「理解してもらえた」という確認が大切です。
小さな配慮が、大きな事故を防ぎます。
そして、その配慮こそが、真の多文化共生社会を実現し、グローバル時代における企業の持続的成長を支える基盤となるのです。
私たちは、ビザ・在留資格の専門家として、法的手続きのサポートはもちろん、在日外国人の方々とそのご家族、そして外国人を雇用する企業の皆さまが直面する様々な課題に対して、包括的なサポートを提供しています。
外国人スタッフの安全管理、教育体制の構築、生活サポートなど、お困りのことがあればお気軽にご相談ください。
一緒に、安全で豊かな多文化共生社会を築いていきましょう。
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