2026年8月20日、北海道京極町の農業法人において、特定技能の在留資格で就労する外国籍従業員に対する暴力やハラスメントが常態化していた疑いが報じられました。札幌出入国在留管理局が既に調査に着手しており、今後の行政処分や刑事責任の追及が注目されています。
この事案は、外国人労働者を受け入れる企業にとって、決して他人事ではありません。本記事では、この事案の概要を整理し、企業が負う法的責任、そして適正な外国人雇用管理のポイントについて解説します。
事案の概要
報道によれば、北海道京極町の農業法人で働いていたミャンマー国籍の女性従業員4人が、2024年5月以降、以下のような暴力やハラスメントを受けていたとされています。
- 作業中に日本語を理解できず、背中を金属製の棒で叩かれた
- 「まじめに仕事をしていない」と怒鳴られ、頭を叩かれた
- 収穫した野菜を腹に投げつけられた
- やっていないミスを追及され、ミャンマーへの帰国を促すような発言を浴びた
女性たちは7月に入って札幌地域労働組合に保護され、「日本人が嫌いになった」と証言しています。また、この4人以外にも暴力を受けた従業員がいた可能性があり、外国籍従業員への暴力やハラスメントが組織的に常態化していたことがうかがえます。
さらに注目すべきは、この農業法人と同じ住所にある会社が、2022年3月に「技能実習生の人権を著しく侵害する行為を行った」として、厚生労働省などから技能実習計画の認定を取り消される行政処分を既に受けていた点です。これは、組織として外国人労働者の人権を軽視する体質が根深く存在していたことを示しています。
企業が負う法的責任
外国人労働者への暴力やハラスメントは、複数の法令に違反する重大な行為です。企業や関係者は、以下のような法的責任を問われる可能性があります。
1. 刑事責任
- 暴行罪・傷害罪(刑法):身体的暴力は刑法上の犯罪です。被害者が被害届を提出すれば、加害者は逮捕・起訴され、懲役刑や罰金刑を受ける可能性があります。
- 強要罪(刑法):帰国を強要する発言や、理不尽な要求をすることは強要罪に該当する場合があります。
2. 民事責任
- 損害賠償請求:被害を受けた従業員は、加害者個人だけでなく、使用者である企業に対しても損害賠償を請求できます(民法715条・使用者責任)。
- 慰謝料請求:精神的苦痛に対する慰謝料も請求の対象となります。
3. 行政処分
- 在留資格認定の取消し・受入れ停止:入管法に基づき、不適切な雇用管理を行った企業は、特定技能外国人の受入れが停止される可能性があります。
- 技能実習計画の認定取消し:技能実習生を受け入れている場合、計画認定が取り消されることがあります(今回の事案では既に2022年に処分を受けています)。
- 労働基準監督署による是正勧告・送検:労働基準法違反があれば、是正勧告や刑事告発を受けることもあります。
4. 社会的責任
- 企業イメージの失墜:報道により企業名が公表されれば、社会的信用を大きく損ないます。
- 人材確保の困難化:外国人労働者だけでなく、日本人労働者からも敬遠され、採用が困難になります。
特定技能制度とは
特定技能制度は、2019年4月に創設された在留資格制度で、人手不足が深刻な特定産業分野(介護、建設、農業、宿泊、外食など14分野)において、即戦力となる外国人材を受け入れるための仕組みです。
特定技能には「特定技能1号」と「特定技能2号」があり、1号は最長5年、2号は在留期限の上限がなく、家族帯同も可能です。
特定技能と技能実習の違い
| 項目 | 特定技能 | 技能実習 |
|---|---|---|
| 目的 | 人手不足の解消 | 国際貢献・技能移転 |
| 転職 | 同一分野内で可能 | 原則不可 |
| 家族帯同 | 2号は可能 | 不可 |
| 受入れ機関 | 直接雇用 | 監理団体経由 |
特定技能は、技能実習と異なり、労働者としての権利がより明確に保障されており、転職の自由もあります。したがって、企業は「対等なパートナー」として外国人労働者と向き合う必要があります。
企業が遵守すべき義務
特定技能外国人を雇用する企業(特定技能所属機関)には、以下の義務が課せられています。
1. 適正な雇用契約の締結
- 日本人と同等以上の報酬
- 労働条件の明示(労働基準法15条)
- 雇用契約書の作成・交付
2. 支援計画の実施(1号特定技能外国人の場合)
- 事前ガイダンス
- 出入国時の送迎
- 住居確保・生活オリエンテーション
- 日本語学習の機会提供
- 相談・苦情対応
- 日本人との交流促進
3. 定期的な届出義務
- 雇用状況の報告
- 支援計画の実施状況報告
- 入管への各種届出
4. ハラスメント防止措置
- 相談窓口の設置
- 研修の実施
- 迅速な対応体制の構築
これらの義務を怠ると、在留資格の認定が取り消されたり、新規受入れが停止されたりする行政処分を受けます。
今回の事案における問題点
1. 身体的暴力の常態化
金属製の棒で叩く、野菜を投げつけるといった行為は、明らかに暴行罪に該当します。このような暴力が日常的に行われていたとすれば、組織的な犯罪行為と言わざるを得ません。
2. 言語サポートの欠如
「日本語を理解できない」従業員に対して、適切な指導やサポートを行わず、暴力で対応することは、支援義務違反です。
3. 精神的ハラスメント
帰国を促すような発言や、理不尽な叱責は、精神的ハラスメントに該当します。
4. 過去の行政処分歴
2022年に技能実習計画の認定を取り消されているにもかかわらず、改善が見られなかったことは、極めて重大です。
企業が今すぐ行うべきこと
1. 現状の点検
- 外国人従業員への対応は適切か
- ハラスメント防止体制は機能しているか
- 法令遵守状況の確認
2. 研修の実施
- 管理職・現場責任者へのコンプライアンス研修
- 異文化理解・コミュニケーション研修
- ハラスメント防止研修
3. 相談窓口の設置
- 外国語対応可能な相談窓口
- 匿名での相談受付
- 第三者機関との連携
4. 専門家への相談
- 行政書士・弁護士への相談
- 社会保険労務士による労務管理の見直し
- 外部監査の実施
5. 支援体制の強化
- 日本語教育の充実
- 生活支援の強化
- 定期的な面談・ヒアリング
外国人労働者の皆様へ
もし職場で以下のようなことがあったら、一人で悩まず、すぐに相談してください。
- 暴力を振るわれた
- 給料が支払われない、約束と違う
- パスポートや在留カードを取り上げられた
- 帰国を強要された
- 理不尽な叱責やハラスメントを受けた
相談先
- 労働組合:札幌地域労働組合など、外国人労働者を支援する組合があります
- 出入国在留管理局:在留資格に関する相談
- 労働基準監督署:賃金未払いや労働条件に関する相談
- 外国人在留支援センター(FRESC):総合的な相談窓口
- 法テラス:無料法律相談
日本の法律は、国籍に関係なく、すべての労働者の権利を守ります。恐れずに声を上げることが大切です。
まとめ
今回の北海道の事案は、外国人労働者を「安価な労働力」としてしか見ていない企業の姿勢が招いた悲劇です。
特定技能制度は、日本の産業を支える貴重な人材を受け入れるための制度であり、企業には高い倫理観とコンプライアンス意識が求められます。
外国人労働者の人権を尊重し、適切な労働環境を提供することは、企業の法的義務であると同時に、持続可能な経営の基盤でもあります。
企業の人事担当者・経営者の皆様には、今一度、自社の外国人雇用体制を見直し、「選ばれる企業」となるための取り組みを進めていただきたいと思います。
そして、外国人労働者の皆様には、「日本で働いてよかった」と思える環境を実現するため、困ったときには必ず専門家に相談していただきたいと願っています。
参考ニュース:https://news.yahoo.co.jp/articles/434356735ce81f373e1f05853ecac89d7d6a0c64
