■はじめに―日本社会が直面する多文化共生の現実
日本社会は今、大きな転換点に立っています。少子高齢化による労働力不足を背景に、外国人住民の受け入れは年々増加しています。2025年末時点で、日本に在留する外国人は約341万人に達し、過去最高を更新しました。
こうした中、群馬県が外国人住民と日本人住民を対象に実施した共生に関するアンケート調査結果は、多文化共生社会の実現に向けた重要な示唆を与えています。この調査結果から見えてきたのは、外国人住民と日本人住民の間に存在する意識の大きな乖離です。
本記事では、この調査結果を詳しく分析し、多文化共生社会を実現するために必要な視点と具体的なアプローチについて考察します。
■調査概要―14市町村で実施された大規模アンケート
群馬県は2026年2月、前橋市、高崎市、太田市、館林市など、外国人住民が多く暮らす14市町村の住民を対象に、多文化共生に関するアンケート調査を実施しました。
調査対象者は、無作為抽出された外国人住民1,600人と日本人住民1,000人。回答者数は外国人461人、日本人319人で、2020年度に実施された前回調査との比較も行われています。
この調査の最大の特徴は、外国人住民と日本人住民の双方を対象としている点です。一方的な視点ではなく、双方向の意識を把握することで、より実態に即した分析が可能になっています。
■調査結果の詳細―浮き彫りになった意識のギャップ
【外国人住民側の意識】
調査結果によると、日本人と「親しく付き合っている」と答えた外国人住民は30.2%で、前回調査(2020年度)から12.4ポイント増加しました。これは、外国人住民が地域社会に徐々に溶け込みつつあることを示す前向きな数字です。
さらに注目すべきは、日本人と「交流したい」と答えた外国人住民の割合です。「たくさん交流したい」「少し交流したい」を合わせると94.8%に達し、前回調査から4.1ポイント増加しています。
この数字が示すのは明らかです。外国人住民の大多数は、日本人との交流を強く望んでおり、地域社会の一員として受け入れられたいと願っているのです。
【日本人住民側の意識】
一方、日本人住民側の意識は対照的です。
地域の外国人住民と「あまり関わらないようにしたい」「関心がない」と答えた日本人は46.7%で、前回調査より11.5ポイント増加しました。外国人住民の交流意欲が高まっているのとは逆に、日本人側の消極姿勢が強まっているのです。
さらに深刻なのは、外国人住民の増加に対する不安の高まりです。外国人住民が増えることで「治安・風紀が乱れる」と答えた日本人は72.4%に達し、前回調査から35.4ポイントも急増しました。
また、外国人住民に求めるものとして「地域のルールを守る」と答えた日本人は94.0%で、前回から5.3ポイント増加しています。
【意識の乖離が示すもの】
これらの数字が描き出すのは、外国人住民と日本人住民の間に存在する深刻な意識の乖離です。
- 外国人住民:94.8%が交流を希望
- 日本人住民:46.7%が関わりを避けたい、72.4%が治安悪化を懸念
外国人住民が地域社会に参加したいと願っている一方で、日本人住民は不安を抱き、距離を置こうとしている。この一方通行のコミュニケーション状況が、多文化共生の最大の障壁となっています。
■意識の乖離が生まれる背景―なぜ日本人は不安を感じるのか
知事は記者会見で、日本人住民の意識変化について「一部の外国人の違法行為などによる不安、不公平感が影響している」と分析しています。
この分析は重要な示唆を含んでいます。つまり、日本人住民の不安は必ずしも外国人住民全体に対するものではなく、「一部の」行為や事例が全体のイメージを形成している可能性があるということです。
【不安の具体的要因】
- 地域ルールの認識不足
ゴミ出しのルール、騒音に関する配慮、共用スペースの使い方など、日常生活における文化や習慣の違いがトラブルの原因となることがあります。 - 言語の壁によるコミュニケーション不足
言葉が通じないことで、誤解や行き違いが生まれやすくなります。 - 情報の非対称性
外国人住民に関する情報が、直接の交流経験ではなく、ニュースや噂から得られることで、ネガティブなイメージが形成されやすくなります。 - 文化的背景の違いに対する理解不足
習慣や価値観の違いを「ルール違反」と捉えてしまうことがあります。
これらの要因に共通するのは、「知らない」「分からない」ことから生まれる不安です。実際の交流経験が少ないために、漠然とした不安が増幅されているのです。
■多文化共生実現に向けた具体的アプローチ
知事は「多文化共生と秩序の維持を両輪で進めるアプローチが必要だ」と述べています。この視点は非常に重要です。多様性の尊重と社会秩序の維持は、決して対立するものではありません。
【行政・自治体が取り組むべきこと】
- 多言語での情報提供の充実
地域のルールや行政サービスに関する情報を、やさしい日本語や複数の言語で提供することが基本です。 - 生活オリエンテーションの実施
新たに地域に住む外国人住民に対して、日本の生活習慣やルール、地域の特性について学ぶ機会を提供します。 - 相談窓口の設置と周知
困ったときに相談できる多言語対応の窓口を設置し、その存在を広く周知します。 - 交流イベントの企画・支援
外国人住民と日本人住民が自然に交流できる機会を、継続的に提供します。
【地域コミュニティができること】
- 顔の見える関係づくり
自治会活動や地域のお祭り、清掃活動など、日常的な交流の機会を大切にします。 - 相互理解のための学びの場
お互いの文化や習慣を学び合うワークショップや勉強会を開催します。 - 「やさしい日本語」の活用
難しい言葉を避け、分かりやすい日本語でコミュニケーションを図ります。 - キーパーソンの育成
外国人コミュニティと日本人コミュニティをつなぐ橋渡し役を育成します。
【個人としてできること】
- 先入観を持たない
「外国人だから」という一括りの見方ではなく、一人ひとりの個人として接します。 - 積極的なコミュニケーション
言葉が完璧でなくても、挨拶や笑顔から始める小さな交流を大切にします。 - 文化的背景への関心
相手の国の文化や習慣に興味を持ち、理解しようとする姿勢を持ちます。 - 困っている人への声かけ
道に迷っている様子や困っている様子があれば、積極的に声をかけます。
■法的・制度的視点から見た多文化共生
多文化共生の推進は、単なる努力目標ではなく、法的にも重要な位置づけがなされています。
2018年に成立した「出入国管理及び難民認定法」の改正により、外国人材の受け入れが拡大されました。同時に、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」が閣議決定され、政府全体で外国人との共生社会の実現に取り組む方針が示されています。
また、地方自治体レベルでも、多文化共生推進プランや指針の策定が進んでいます。群馬県も今回の調査結果を、2027年度から2031年度の「県多文化共生・共創推進基本計画」の骨子案に反映する方針です。
【重要な法的視点】
- 差別の禁止
国籍や民族を理由とした不当な差別は許されません。 - 基本的人権の保障
外国人住民も、日本国憲法が保障する基本的人権の主体です。 - 教育を受ける権利
外国にルーツを持つ子どもたちの教育機会の保障は重要な課題です。 - 労働者としての権利
外国人労働者も、労働基準法等の労働関連法規の保護を受けます。
■企業・組織が果たすべき役割
多文化共生の推進において、企業や組織の役割も重要です。
外国人材を雇用する企業は、単に労働力として受け入れるだけでなく、地域社会の一員として定着できるよう支援する責任があります。
【企業の取り組み例】
- 日本語教育の支援
業務に必要な日本語だけでなく、生活に必要な日本語の習得を支援します。 - 生活サポート
住居の確保、行政手続きのサポート、地域情報の提供など、生活基盤の確立を支援します。 - 文化的配慮
宗教上の配慮、祝祭日への理解など、多様な文化的背景を尊重した職場環境を整備します。 - キャリア形成支援
長期的なキャリア形成の機会を提供し、定着と成長を促進します。
■今後の展望―「共生」から「共創」へ
群馬県の計画名称にある「共生・共創」という言葉は、今後の方向性を示す重要なキーワードです。
「共生」が「ともに生きる」ことを意味するのに対し、「共創」は「ともに新しい価値を創造する」ことを意味します。多様性を単に受け入れるだけでなく、多様性を強みとして新しい地域社会を創り上げていく。これが次のステージです。
【共創社会に向けて】
- 多様性をイノベーションの源泉に
異なる文化や視点を持つ人々が集まることで、新しいアイデアやサービスが生まれます。 - グローバル人材の育成
外国人住民との交流を通じて、日本人、特に若い世代のグローバル感覚が育ちます。 - 地域経済の活性化
外国人住民が消費者、起業家、労働者として地域経済に貢献します。 - 持続可能な地域社会の構築
人口減少社会において、外国人住民は地域を支える重要な担い手です。
■まとめ―一人ひとりができることから
群馬県の調査結果が示した意識の乖離は、決して群馬県だけの問題ではありません。全国の多くの地域が直面している共通の課題です。
重要なのは、この乖離を「解決不可能な対立」として諦めるのではなく、「対話と理解によって埋めることができるギャップ」として捉えることです。
外国人住民の94.8%が交流を望んでいるという事実は、大きな希望です。相手が心を開いているときこそ、関係構築の最大のチャンスです。
不安の多くは「知らない」ことから生まれます。知ることで、不安は理解に変わり、理解は信頼に変わります。そして信頼は、新しい価値を生み出す共創関係へと発展していきます。
「多文化共生」は特別なことではありません。隣に住む人を一人の人間として尊重し、コミュニケーションを取り、ともに地域社会を作っていく。その日常の積み重ねこそが、多文化共生社会の基盤です。
今日から、あなたにもできることがあります。外国人の隣人に挨拶をする、地域のイベントに参加する、相手の文化に関心を持つ。小さな一歩が、大きな変化の始まりです。
私たち一人ひとりが、多様性を「リスク」ではなく「機会」として捉え、「共生」から「共創」へと歩みを進めることで、より豊かで活力ある地域社会を実現できるはずです。
参考記事: https://news.yahoo.co.jp/articles/128fd6a713beed10a866b389c239fc71a34f00ea
