はじめに:国境を越えて広がる介護の未来
日本は今、深刻な少子高齢化に直面しています。厚生労働省の推計では、2022年度に約215万人だった介護職員について、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人が必要とされており、介護人材の確保は重要な社会課題となっています。
先日、台湾の看護・介護福祉を学ぶ学生8名が、北海道小樽市の介護施設でインターン研修を受けているというニュースが報じられました。彼らは約1カ月にわたり、訪問看護や介護の実地研修を積みながら、日本の福祉制度や施設運営を学んでいます。
この記事では、このニュースを起点に、外国人が日本の介護現場で活躍するための在留資格の種類と、段階的なキャリアステップについて詳しく解説します。外国人スタッフの雇用を検討している企業の経営者や人事担当者、そして日本で働きたいと考えている外国人の方々にとって、実践的な情報をお届けします。
1. 台湾学生のインターンから見える、日本介護の魅力と課題
1-1. 言葉の壁を越えた心のケア
台湾南部・屛東の美和科技大学から来日した学生たちは、そのほとんどが日本語ができない状態でインターンに参加しました。しかし、歌やゲーム、花笠音頭を通じて高齢者と触れ合い、笑顔でコミュニケーションを図っています。
ある学生は「無口だったお年寄りが、語りかけに対し笑顔を見せるようになって、とてもうれしかった」と語りました。介護の本質は、言葉だけではなく、心と心のつながりにあることを、彼女たちは体現しています。
1-2. 日本と台湾の介護制度の違い
台湾も日本と同じく少子高齢化と介護人材不足という課題を抱えています。しかし、台湾では大規模な高齢者福祉施設が増えている一方、日本ではグループホームなど地域密着型の小規模施設が主流です。
また、日本は介護保険制度に基づき要介護認定を受けてサービスを利用する仕組みを中心としています。一方、台湾では「長期照顧(Long-Term Care)」政策の下で高齢者等への介護・生活支援サービスが整備されており、制度の財源や認定、サービス提供の仕組みには日本との違いがあります。
学生たちはこうした制度の違いを学ぶことで、より幅広い視野を持つケア専門職を目指しています。
2. 台湾の大学生はどの在留資格で介護インターンをしているのか?
今回報道された台湾の学生が具体的にどの在留資格で活動しているかは報道内容だけからは確認できませんが、外国の大学生が日本でインターンシップを行う場合、その活動内容、報酬の有無、滞在期間等によって必要となる在留資格が異なります。
インターンシップで使われる主な在留資格
特定活動(インターンシップ/告示9号)
- 報酬を受ける場合に使用
- 外国の大学の教育課程の一部として行われるインターンシップであること
- 外国の大学と日本の受入機関との契約に基づいて実施されること
文化活動
- 無報酬のインターンシップで、滞在期間が90日を超える場合
- 学術・芸術上の活動や日本文化の研究等が該当
短期滞在
- 無報酬で、滞在期間が90日以内の場合
- 査証免除の対象となる場合には、短期滞在のための査証取得が不要となる場合があります
台湾の学生のように、約1カ月間の滞在で介護施設での実地研修を行う場合、無報酬であれば「短期滞在」、報酬を伴う場合は「特定活動(インターンシップ)」などが考えられます。
このようなインターンシップ経験を経て、将来的に日本で介護職として働きたいと考える外国人の方も少なくありません。その場合、次章で解説する在留資格を取得する必要があります。
3. 外国人が日本で介護職に就くための在留資格とは?
外国人が日本で介護職として働くには、適切な在留資格(ビザ)を取得する必要があります。現在、介護分野で認められている主な在留資格は以下の通りです。
3-1. 技能実習(介護職種)
技能実習制度は、開発途上国への技能移転を目的とした制度で、介護職種は2017年に追加されました。
- 対象者: 海外の送り出し機関を通じて来日する外国人
- 在留期間: 最長5年間(技能実習1号:1年、2号:2年、3号:2年)
- 特徴: 実務を通じて介護技能を習得し、帰国後に母国で活躍することが前提
- 要件: 日本語能力試験N4程度以上、入国時講習の受講など
技能実習修了後、条件を満たせば「特定技能」への移行が可能です。
【2027年4月から育成就労制度へ】
2027年4月1日から育成就労制度が施行され、技能実習制度から段階的に移行します。
育成就労制度は、従来の技能移転を主目的とした技能実習制度とは異なり、日本国内における人材育成と人材確保を目的とし、原則3年間の就労を通じて特定技能1号水準の人材を育成する制度です。介護分野も育成就労制度の対象となります。
育成就労制度の主な特徴:
- 育成期間: 原則3年間
- 目的: 特定技能1号水準への人材育成
- 転籍: 技能実習制度と比較して、一定の要件の下で本人意向による転籍が認められる
- 特定技能への移行: 特定技能1号への移行を見据えた人材育成が制度上明確になる
なお、既存の技能実習生等については経過措置があります。
3-2. 特定技能(介護分野)
特定技能制度は、2019年に創設された在留資格で、即戦力となる外国人材の受入れを目的としています。
- 対象者: 一定の技能と日本語能力を持つ外国人
- 在留期間: 通算で原則5年以内。1回ごとの在留期間は、3年を超えない範囲内で法務大臣が個別に指定
- 取得方法:
①介護技能評価試験、介護日本語評価試験、JFT-BasicまたはJLPT N4以上に合格
②介護職種の技能実習2号を良好に修了した者などについては、一定の試験が免除される場合あり - メリット: 転職が可能で、キャリアの柔軟性が高い
一方、2027年4月から始まる育成就労制度では、特定技能1号への移行にあたり、原則として所定の技能試験および日本語試験への合格が必要となります。
【なぜ介護分野には特定技能2号がないのか?】
特定技能2号は、熟練した技能を持つ外国人を対象とする在留資格です。2023年には対象分野が大幅に拡大されましたが、介護分野は現在も対象外となっています。
これは、介護分野には既に在留資格「介護」という長期就労可能なルートが設けられているためです。出入国在留管理庁も、介護分野は専門的・技術的分野の在留資格「介護」が存在するため、特定技能2号の対象としていないと明記しています。
3-3. 介護(在留資格)
「介護」の在留資格は、日本の介護福祉士国家資格を取得した外国人に与えられます。
- 対象者: 介護福祉士国家資格保持者
- 在留期間: 5年、3年、1年または3月。更新回数に制限はなく、介護福祉士として継続して就労する限り、長期的な在留が可能
- 取得方法:
①日本の介護福祉士養成施設を卒業するなどして、介護福祉士資格を取得・登録
②EPA(経済連携協定)で来日し、実務経験を積んで国家試験に合格
③技能実習や特定技能で働きながら実務経験を積み、実務者研修を修了して国家試験に合格 - メリット: 在留期間の更新回数に制限がない、家族帯同可能、将来的に永住許可の要件を満たした場合には永住許可申請を検討可能
3-4. EPA(経済連携協定)に基づく介護福祉士候補者
EPAは、インドネシア、フィリピン、ベトナムとの経済連携協定に基づく制度です(台湾は対象外)。
- 対象者: 協定国の看護学校卒業者または介護関連資格保持者
- 在留期間: 最長4年間
- 特徴: EPAに基づき来日し、日本の介護施設等で就労・研修を行いながら介護福祉士国家試験の合格を目指す制度。介護福祉士資格を取得した後は、一定の手続により介護福祉士として長期的に就労が可能
4. 外国人介護人材のキャリアステップ:段階的な成長プロセス
外国人が日本の介護現場で長期的に活躍するには、段階的なキャリアアップが重要です。
【重要】以下は代表的なキャリアパスの一例です。すべての外国人が技能実習または育成就労からスタートするわけではありません。日本の介護福祉士養成施設から在留資格「介護」に進むルート、EPAルートなどもあります。
STEP 1: エントリーレベル(技能実習・育成就労)
- 介護現場での基礎的な実務経験を積む
- 日本語能力を向上させる(N4→N3レベル)
- 介護技術の基本を習得
STEP 2: 中級レベル(特定技能1号)
- より高度な介護技術と日本語能力を習得
- 実務経験を積み上げる(介護福祉士受験資格を目指す)
- 実務者研修を修了
STEP 3: 上級レベル(介護福祉士資格取得→在留資格「介護」)
- 原則として、介護等の実務経験3年以上などの要件を満たし、実務者研修を修了することで、介護福祉士国家試験の受験資格を得る
- 介護福祉士国家試験に合格
- 専門職としてのキャリアを確立
- 要件を満たせば永住申請も視野に入れた長期的な人生設計
このように、外国人介護人材は段階を踏んで成長し、日本社会に貢献するプロフェッショナルへと成長していきます。
5. 雇用企業が知っておくべき、在留資格申請のポイント
5-1. 在留資格ごとの受入れ要件
技能実習(2027年4月以降は経過措置により存続するケースあり)
- 実習計画の作成、監理団体との連携、生活支援体制の整備が必要
育成就労(2027年4月以降)
- 育成就労計画を作成し、認定を受ける
- 監理型育成就労の場合は、許可を受けた監理支援機関による監理・支援を受ける
- 適切な労働条件や生活環境を確保する
- 介護分野固有の受入れ要件を満たす
特定技能
- 支援計画の作成、登録支援機関への委託も可能
介護(在留資格)
- 介護福祉士資格保持者の採用、就労条件の整備
5-2. 申請書類と手続きの流れ
在留資格の申請には、出入国在留管理局への書類提出が必要です。必要書類は在留資格ごとに異なりますが、一般的には以下が含まれます:
- 在留資格認定証明書交付申請書(海外から呼び寄せる場合)
- 在留資格変更許可申請書(国内で資格変更する場合)
- 雇用契約書、労働条件通知書
- 事業所の概要を示す書類
- 外国人の学歴・職歴を証明する書類
5-3. 専門家への相談も有効
在留資格の申請は複雑で、書類の不備や要件の誤解により不許可となるケースも少なくありません。初めて外国人介護人材を受け入れる場合や、在留資格の選択・変更を伴う場合には、行政書士など在留資格手続の専門家に相談することも有効です。
専門家に相談することで、以下のメリットがあります:
- 在留資格要件や必要書類の事前確認
- 申請書類の正確な作成支援
- 法改正や制度変更への対応
- 時間と労力の節約
6. 外国人介護人材受入れの成功事例とメリット
6-1. 職場の活性化と多様性の促進
外国人スタッフの受入れは、職場に新しい風を吹き込みます。異なる文化や価値観が交わることで、日本人職員も刺激を受け、サービスの質が向上します。
6-2. 利用者の生きがいにつながる
台湾学生のインターンを受け入れた施設の副会長は、「お年寄りも学生の受け入れを楽しみにしている。若者の教育に役立っていることが、生きがいにもつながっている」と語っています。
6-3. 職員のスキルアップ
外国人スタッフへの指導を通じて、日本人職員も自身の業務を見直し、スキルアップする機会となります。
7. 外国人本人が知っておくべき、日本で働くための準備
7-1. 日本語能力の向上
介護現場では、高齢者とのコミュニケーションが不可欠です。最低でも日本語能力試験N4レベル、できればN3以上を目指しましょう。
7-2. 介護福祉士資格の取得を目指す
介護福祉士資格を取得・登録することで、要件を満たせば在留資格「介護」への変更が可能となり、日本で長期的なキャリアを築きやすくなります。
介護福祉士国家試験では、介護の基本、社会の理解、こころとからだのしくみ、医療的ケアなど、介護実務に必要となる幅広い知識が問われます。
7-3. 生活・文化の理解
日本の生活習慣、職場の文化、介護保険制度など、幅広い知識を身につけることが、円滑な就労につながります。
まとめ:未来の介護を共に創る
台湾の学生たちが小樽でインターン研修を受けている姿は、国境を越えた学びと協力の素晴らしい事例です。日本の介護現場は、外国人人材なしでは成り立たない時代に入っています。
技能実習・育成就労から始まり、特定技能、そして介護福祉士資格取得へと続くキャリアパスは、外国人にとっても、受け入れる企業にとっても、大きなチャンスです。
適切な在留資格の選択と申請手続きについて、初めて外国人介護人材を受け入れる場合や、在留資格の選択・変更を伴う場合には、行政書士など在留資格手続の専門家に相談することも有効です。
一緒に、持続可能な介護の未来を創っていきましょう。
[記事URL]
https://news.yahoo.co.jp/articles/d81424aa0296dc8b9884d40302ad2950a3dba1f8
