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はじめに:事例の背景と問題提起
先日、佐賀県で自称ベトナム国籍の30歳男性が、パスポート不携帯の疑いで逮捕されました。「数カ月前に電車の中で落とした。再発行はしていない」と本人が認めたというニュースです。
一見、個人の「うっかり」や「油断」に見えるこの事件ですが、これが企業にとっては重大なリスクの芽となり得ます。企業が抱える「外国人雇用の現場」において、こうした事例にどう対応し、未然防止や即時対応を体現するかが、信頼と安心につながります。本稿では事例を出発点に、企業としての具体的なノウハウや対策を体系的にご紹介します。
1. パスポート・在留カード携帯義務の法的根拠とポイント
- 入管難民法第70条の2では、在留外国人は「常に」パスポート及び在留カードを携帯し、公安機関の職員から求められた際にこれを提示しなければならないと定められています。
- 違反した場合、最短でも書類不備→指導→摘発という流れがあり、今回のように警察の職務質問で露見すれば、その場で対応を求められます。
- ポイント整理
- 携帯義務は「義務」であり「推奨」ではない
- 身近な場面で提示を求められる可能性が高い
- 個人だけの責任では済まず、企業にも波及するリスクがある
2. 紛失・再発行時の正しい手順と期限
「数カ月紛失放置」は論外。紛失には以下の対応が必須です。
- すぐに警察へ遺失届の提出
→「窓口で旅券番号の記載が可能な届出用紙」を入手し、交付された受理番号を控える。 - 入管当局への紛失届/再交付申請
→在留カード・パスポート(在外公館や入管)共に、10日以内の届け出が求められています。 - 書類再交付にかかる期間を伝える
→念のため、代替証明(渡航者用のIDやパスポート申請中証明)を持たせる。 - 企業としての対応体制・マニュアル整備
→どの部署が何をするか明文化しておくと安心です。
3. 企業が講ずべき「予防策」4ステップ
対策 | 内容 |
---|---|
a.定期チェック制度 | 月に一度、在留カードとパスポートの携帯確認を実施。デジタル写真でも構いません。 |
b.マニュアル整備&周知 | 紛失時の手順書を全スタッフに配布。Webや社内掲示板でも掲示。 |
c.研修の実施 | 年に1回以上、入管法と書類携帯義務を解説。ケーススタディも交えて学習。 |
d.相談窓口の設置 | 紛失リスクが発生した際、すぐ相談できる窓口(社内・行政書士対応)を明示。 |
4. 事例から読み取る「リスク管理」と「ブランド信頼」
- 黙認=企業の責任
従業員が書類紛失を相談できず放置した結果、摘発→企業名が報道露出 - 信用失墜・業務停止リスク
特にパスポートは国際的にも重視される公的身分証明。不携帯=社会的信用の危機に。 - ブランドイメージへの風評被害
事件が報道されると「この会社、大丈夫か?」という目がつくことも。 - 逆に言えば、「管理が徹底してる会社」としての信頼醸成のチャンスでもある。
しっかり対策していることを社外へ発信すれば、対外的な安心感へとつながります。
5. 書類管理の実務ノウハウ【リスト】
- 書類控えのクラウド保管
→パスポートと在留カードの画像控えをGDPRやPマーク対応フォルダに保管。 - 持ち歩き許可書の発行
→紛失中に不安がある場合、在留カード再交付中である旨を記した社印付き証明を持たせておく。 - パスポート及び在留カードの有効期限リスト化
→1か月前には更新催促メール&面談でフォロー。 - 携帯確認チェックカード
→入館スタンプカード方式で本人が「携帯しました」報告をする仕組み。 - 常設窓口設置(行政書士など)
→社内で不安になったら何でも即相談できる体制構築。 - 定期的な勉強会開催
→実務でよくあるミスや裁判例を共有することで、リアリティある理解を促す。 - 通勤経路別リスクシミュレーション
→帰宅・通勤中に紛失した場合を想定し、従業員とシミュレーション会を実施。 - 緊急時の連絡フロー整備
→誰が入管に届ける、誰が本国領事館に連絡するか、明文化。 - 保険活用(有償)
→一部では「紛失証明」「緊急再発行サポート」を提供する保険の検討も。 - 報告義務の明文化
→書類紛失・不携帯時の“内部報告義務”を就業規則や雇用契約書に明記。
6. 「やらなきゃダメ」ではなく「やっておくべき」理由
- 従業員の不安を減らし、安心して働ける環境を提供する
- 管理体制が整備されている企業として対外信頼を得る
- 何かあったとき、防御対応ではなく即時対処できる準備を整える
- 将来的に制度変更や補助金支援などに迅速対応できる基盤ができる
7. 最後に:今日からできる3つのアクション
- ✅ 今週中に全外国人社員の書類・携帯状況をチェックする
- ✅ 紛失時マニュアルと相談体制を文書化し、全社員に周知
- ✅ 行政書士・社内窓口を明示し、不安を即時解消できる体制を作る
まとめ
今回の逮捕事例は他人事ではありません。書類の紛失・不携帯はいつ誰に起こるか分かりませんが、日頃のちょっとした意識と体制の整備が、従業員と企業を守る力になります。ぜひ本稿のノウハウを参考に、御社でも「安心と信頼の外国人雇用体制」を築いていきましょう。
ご相談、ご質問などお気軽にお問い合わせください。行政書士として、実務の視点から全力でサポートいたします。